「完成度の高い実写化作品」ゴールデンカムイ コウさんの映画レビュー(感想・評価)
完成度の高い実写化作品
劇場で観る予定ではありませんでしたが、評判が良いので鑑賞しました。
ほぼ原作通りと言っていいストーリー展開で、構成や演出による相違点などはありましたが、漫画の実写化作品としては成功と言えると思います。
まず、序盤の戦闘描写からのオープニングが素晴らしい。
日露戦争時の二〇三高地戦から始まりますが、鑑賞前はこの一連のシーンにここまで時間を割くとは思っていませんでした。予想以上にしっかりと戦地での戦いが描かれていた事で、主人公である杉元のバックボーンに加え、彼が ”不死身” といわれる所以が分かる様な演出となっています。
そして激戦の後に映し出されるのが、雪原を一人歩く杉元のシーン。苛烈で低彩度な戦地と、眩しい程に明るい銀世界。動かぬ大勢の戦死体と、静かに歩みを進める一人の男。これらの対比が、過去と現在の境界線をくっきりと描き出しています。
映し出される英字タイトルを観ながら、北海道という壮大な地を舞台とする今作の世界観が伝わる、切なくて美しいオープニングだなと感動しました。
この作品の根幹でもあるアイヌについての描写も、衣装や小道具に至るまでとてもこだわりを感じさせるものでした。一番伝えたいであろう大切な部分をきちんと映像として昇華できているという事に、原作へのリスペクトを感じました。
個人的に印象的なのが、杉元がアシㇼパの元を去るシーンです。
幼いアシㇼパの元からアチャとレタラが去ってしまった過去と、成長した自分の元から杉元が去ってしまった現在と。この対比がとても切なくて、また己の元から大切な存在(となるであろう人物)が居なくなってしまうのかと、この時の彼女の気持ちを思うと本当に切なくなります。しかし、今度は自分の意思でもって追いかけるんですよね、アシㇼパは。そして自分を置いていった杉元を見事に助け出すのですから、アシㇼパという少女の強さに心打たれます。
山田杏奈さん演じるアシㇼパは、その芯の強さとどこか年相応の幼さも感じさせる演技で、違和感なくアシㇼパとして観る事ができました。個人的には、実年齢に近いキャストではなく山田さんで良かったなと思います。
そして主役の杉元を演じた山崎賢人さん。個人的にはキングダムでの演技が好きな事もあって期待していましたが、様々な声がある中で、前評判を覆す演技で今作の主役を見事に演じきったと思います。戦闘武闘シーンでの立ち回りでは身体能力の高さに驚かされました。
その他キャストについても、原作に沿ったビジュアルとそれぞれの演技力で上手くキャラクターを再現していたと思います。
特に、鶴見中尉を演じた玉木さんは見事なハマり役でした。単にビジュアルだけでなく、口調や表情に独特の動きも含め、これぞ実写版鶴見!と思わせる演技が素晴らしかったです。
矢本悠馬さん演じる白石も、彼の絶妙なおもしろさが前面に現れており、正に適役だと感じました。第七師団に捕まった杉元を助けるために潜入するシーンなどでは、客席から笑いが漏れていました。
フチ役の大方斐紗子さんも、まるで原作のフチそのもので驚きました。優しい微笑みとアイヌ語の語り口から、アシㇼパへの深い愛情が伝わってきました。
他にも、柳俊太郎さん演じる二階堂二人の怪演っぷりや、舘ひろしさん演じる土方歳三の格好良さ… などなど色々とありますが、長くなるのでこの辺りで割愛します。
キャラクターによっては原作との違いはあるものの、そのキャラクターを “実在する一人の人間” として見た際に不自然にならないように、敢えて寄せ過ぎない意図もあるのかなと思いました。
CGのクオリティに関しては、多少気になるシーンはあったものの、あまり違和感を感じる事なく鑑賞できました。対ヒグマの描写などはとても迫力があって引き込まれましたし、クライマックスの馬ゾリでのアクションシーンなども、映画だからこそ楽しめる演出として見応え十分でした。
過激な描写は原作と比べると控えめかなと感じましたが、全体的にコメディとシリアスが良いバランスで、エンドロール含め、原作にも出てくるアイヌ料理のシーンも丁寧に描写されていて良かったです。
続編は幹事であるWOWOWでのドラマ化のち再度映画化、などという噂もあるようですが、いずれにしても続編が予定されている事は明らかなので、どんな形になるにせよ楽しみに待ちたいと思います。