「原作への愛とリスペクトが隙間なく溢れる作品」ゴールデンカムイ るんさんさんの映画レビュー(感想・評価)
原作への愛とリスペクトが隙間なく溢れる作品
原作ファンなので、実写化にあたって心配だった点は、
「各キャラクターのイメージ」
「熊やレタラのCG」
だったが、杞憂であった。
特に重要視していたキャラはアシリパと鶴見中尉だ。配役が発表され、アシリパの俳優さんは映像で拝見したことがなく、年齢も原作とは違ったために不安だったが、聡明さとあどけなさ、変顔までも上手く再現されていたと思う。気付けば映画の終盤にはアシリパに魅了されていた。
逆に鶴見中尉はイメージ通りの配役で期待していたが、もっと振り切って変態さを表現しても良いと感じた。変態を振り切った先の、可笑しさのようなモノを出して欲しい。
杉元に関してはアクションシーンは良かったのだが、コメディーシーンがうまく再現されていなかったように思う。俳優の真面目さが際立ってしまった印象。
他はイメージ通りで、特に白石と梅子が良かった。それぞれの歴史と人生が交差し、むごいシーンもある中で、白石のキャラは欠かせない。レタラに頭を噛じられるシーンはコリコリ音がして、(骨までいってる…!)と笑いをこらえるのに必死だった。対照的に、梅子には泣かされそうになった。仕草や表情だけで梅子の思いが伝わってきたようで素晴らしかった。
CG、VFXに関しては、日本もここまで出来るようになったかと関心させられた。
アクションやカメラワーク、ロケーションや映像美も秀逸。
熊の動きも不自然さがなくちゃんと恐ろしいし、レタラはとにかく美しい。靴下を嗅ぐシーンでは表情もあり可愛い。
夜には、焚火が消えた暗闇の中で、月にかかった雲が晴れて光が煌々と降り注ぐシーンも印象的だった。
セリフやアングルまで、全編通して原作にほぼ忠実に作られていたが、改変されていた場面には、実写だからこそ出来る表現方法で、より良くしようという作り手の意思がきっちりあったように思う。
杉元が囚人を背負って歩いていると、まず脇に子熊の姿が目に入り、カメラが移動すると人物の背後に巣穴が映る。そこから音もなくゆっくりと親熊が出てきて杉元に襲いかかるシーンは秀逸だった。
別のシーンでは、杉元が巣穴に飛び込んだ後、熊が第七師団を襲うシーンも、巣穴内から一点長回しのワンカットで描かれていて、それまでほぼほぼ原作に忠実に描かれていただけに、意外な視点に驚かされた。
これこそが実写化する意味だと思う。個人的にはどんな作品も、原作が一番面白いと思っていて、中でも実写化された邦画はひどいものが多い。わざとらしい説明的なアングルや、説明的なセリフが多く、不自然なシーンばかりで物語に没頭できないことが多い。(中には人物紹介だけで冒頭30分も費やすこともある。)物語に没頭できないと、時に制作側の大人の事情まで汲み取れてしまい、萎えることがある。ところが今作品は最初からこの世界観にすんなり入り込めた。二〇三高地での死闘、自然と共存するアイヌの人々、感染症の恐怖、戦争を生き抜いた各々の思想。それぞれが丁寧に、力強く描かれていた。原作への愛とリスペクトが隙間なく溢れていて、絶対に良い映画を作ろうという強い意思を感じた。欲を言えば、もう少し杉元とアシリパの心が近づく様を表現できたら、と思ったが、総じて原作ファン納得の仕上がりだったと思う。
全31巻を3部作にまとめる予定での第1部。どこで終わるのか、どうまとめるのか気になっていたが、大きくカットされたシーンもなく、上手くまとめられていたように思う。原作を知らない方が見れば「これで終わり?」と肩すかしをくらった気分になるかもしれない。ただ、個人的には次回作を予告するような映像もあり、期待感も高まったため、満足のいく内容だった。次回作から完結までが待ち遠しい。