「風刺と毒」逆転のトライアングル 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
風刺と毒
《ヒエラルキーの逆転!!》
エッジが効いていて痛快です。
金持ちセレブ、不労所得のインフルエンサー、
武器商人の金持ち夫婦、ロシアの大富豪夫妻。
セレブ(庶民の敵)はトイレ掃除人にひざまずくことになる。
溜飲が下がりました。
これぞカンヌのパルムドールに相応しい。
監督のリューベン・オストルンド。
2作品連続の快挙だけど、「ザ・スクエア思いやりの聖域」
より主張が明確で分かりやすい。
「フレンチアルプスで起きたこと」
これはブラック度が足りず物足りなくて歯痒かった。
なのでこの作品は毒が炸裂して変な気取りがなくて
私にはこちらの方がピンと来る。
【風刺と毒】
分かり易く庶民の敵・インフルエンサーを血祭りにあげる。
豪華クルーズ船と言う馬鹿ばかしい【金と暇の象徴】
そこを映画の舞台にしたことが効果的だ。
最初はひたすら不愉快だった。
顔と体だけが売りの男性モデル・カール(ハリス・ディキンソン)の
オーディション風景。
仕切ってる男がイヤミな奴で傲岸で男性モデルを見下している。
モデルは人ではなく品物だ。
カールの同棲相手で恋人のヤヤ(チャールビ・ディーン)
ヤヤは人気モデルで有名なインフルエンサー。
そのヤヤのヒモのようなカール。
レストランの支払いを「俺に意図して払わせようとする」と、
カールは因縁をつけてネチネチとからむ。
このバカップルの日常的痴話喧嘩なのでしょうが、嫌気がさす。
そして場面は変わり
《2・・・ヨット》
彼らはインスタに発信する事の対価として、
なんと無料で豪華クルーズ船に乗船している。
ヤヤがモデルの傍らインスタグラムで投稿して
膨大な利益を得ているらしい。
スマホに向かい大口を開けてパスタを食べるヤヤ・・・
実際にはヤヤはパスタを一口も食べない
(穀物アレルギーと言い訳してるが、太るからか?
(インスタの中身は一事が万事この調子なのだろう・・・)
クルーズ船には暇と金を持て余した【リタイアした金持ち】が
飽食を繰り返して傍若無人に振る舞っている。
スタッフは高額なチップのためなら、どんな要求も飲む。
マネー!!money!!money!!と狂喜乱舞するスタッフ、
【カールの告げ口】
「従業員の1人が甲板で上半身裸で作業している、しかも喫煙しながら」
穏便に対処して・・・と口では言うが、
チーフ・マネージャーのポーラは素早い対応、
その従業員は即刻船を降ろされてもモーターボートで去っていく。
特筆すべきは、
文句をつけたカールの服装が上半身裸で下は海水パンツなのだ。
(客の裸は良くて、肉体労働者は脱ぐことも御法度)
この辺りから私の心はカールが不快で怒りでムカムカして来る。
そしてロシアの富豪夫人も同情という名の傲慢な申し出をする。
「自分はジャグジーで楽しんでいる、だからスタッフも海を楽しむべきだ」
食事の支度の忙しい時にスタッフはウォーター滑り台で
プールでダイブする羽目になる。
《迷惑なのは、あんただ》
お客様と従業員。
神様と僕(しもべ)
その格差、ヒエラルキーがこれでもかと描写される。
そして船は大揺れの中キャプテンズ・ディナーが開催される。
船長はアル中のマルクス主義者。
船長とロシア富豪の会話は蘊蓄だらけで面白かった。
いわく、共産主義者とは、マルクス・レーニンを読む人。
反共産主義者とは、マルクス・レーニンを理解している人。
そう言ったのはロナルド・レーガン大統領とか?
真偽の程は分からないが、大変面白かった。
この映画の1番のBIG・NAMEであるウディ・ハレルソンが
演じる船長。
ディナーが終わりに近づくと、大揺れの船内。
客の嘔吐大戦争になる。
特にロシアの富豪夫人の嘔吐は自室の便器を抱え込み、
揺れに吹っ飛び、転がり床に這いつくばる壮絶なものだ。
我儘のしっぺ返し・・監督は意地が悪い。
そして海賊が投げ込んだ手榴弾で豪華クルーズ船は沈没する。
《3・・・島》
無人島ではゴールディング作の「蝿の王」を連想するのだった。
力のあるものが他を睥睨する。
この後半の59分から「逆転のトライアングル」の火蓋が切られる。
無人島に流れ着いたのは、
1、ロシア人富豪(妻の死体から指輪とネックレスを泣きながら外す)
2、すぐに「ロレックスを買ってやる」と言う会社を売った金持ち。
3、黒人の機械室の乗組員。
4、「雲の中」と呼ばれる口のきけないセレブの妻。
(この言葉は連呼されるが、歩けなくて口のきけないセレブ妻の名が、
(インゲン・ヴォルケン=雲の中ってホント?
(人間の運命なんて五里霧中ということか?)
5、総括マネージャーのポーラ。
6、ヤヤ。
7、カール、
そしてトイレの掃除係りの中年アジア系のアビゲイル。
総勢8人だ。
蛸(タコ)を素手で捕まえて、火を起こし、調理して振舞ったのは
アビゲイルだった。
アビゲイルは素手で魚を捕獲して、食料で7人を手なずけて
「キャプテン」に収まる。
食料欲しさにアビゲイルのご機嫌を取る7人。
まるで役立たずのカールはひょんなことから、
アビゲイルと食料を貰う対価としてSEXすることになる。
オレンジ色の寝心地の良い救命ボックスを2人で独占して、
【ラブボート】と落書きされカールは見下され、妬まれ、
恋人のヤヤからは冷たい仕打ちを受ける。
ヤヤとアビゲイル。
外見の差は明らかだ。
今は食料で釣っているがヤヤが邪魔だ。
2人で山越えをすると、なんとリゾート地の裏手に出る?
これも廃墟にも見えるし、すべて額面通りには受け取れない。
ラストでアビゲイルはヤヤを殺す。
カール、ヤヤとの3角関係の精算なのか?
「付き人にしてやる」との言葉にキレたのか?
カールが気が狂ったように叫んで茂みを突っ走って行く・・・
ここで映画は終わるのだが・・・
エンディング曲のダンスミュージカルは、
「この厳しい状況を乗り越えよう」と歌っている。
一見セレブにエールを送るかのような歌詞だが、
ヤヤを殺したアビゲイルはどんな報いを受けるのか?
アビゲイルは「蝿の王」(蝿のたかった死体?)
になるのか?
余韻は複雑でとても満足した。
極上の面白さでした。
返信ありがとうございました😭町山さんは鋭いですがズレてますね!海🌊は全てを飲み込むので基本なんでもありですね😊貴殿のレビューのように面白い作品だった・・と記憶しています
どうでもイイですけど 文春 相変わらずイイ仕事してますね❗️ありがとうございました。