「レストランと船上と無人島で起きたこと」逆転のトライアングル ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
レストランと船上と無人島で起きたこと
『リューベン・オストルンド』監督の前々作、
〔フレンチアルプスで起きたこと(2014年)〕は
何とも皮肉な映画だった。
フレンチアルプスの高級リゾートで
スキーを楽しむ若い夫婦と幼い子供達。
ところが人工的に起こされた雪崩が
計算を誤りレストランのデッキ迄流れ込んで来る。
パニックになった夫は、妻と子を置き去りにし、
自分だけが逃げ出す。
結果、誰も怪我をせずに済むのだが
夫婦の間には気まずい空気が漂う。
また、自分が我先に逃げたことを友人たちにも認めない夫の態度に
妻は不信感をつのらせる。
観ていても気まずく、不愉快になる一方、
男は常にマッチョで家族を守るものとのテーゼにも
疑いを持つのも確か。
本作は先の作品とも、かなり近似のテイストを感じるのだ。
物語りは、三つのパートで構成。
先ずはレストランで
若い男女のモデルが食事の支払いを巡って言い争いに。
男性モデルの収入は、女性のそれに比べ1/3程度しかないとの知識が観客に与えられ、
且つ、今回は女性が言い出した食事であることにも触れられる。
それでも払いは男性がするの?との
世間的な通年への疑念。
二つ目のパートは豪華客船の中。
乗船しているのは、クルージングを楽しむ
世界の富豪たち。
そこには先のモデルのカップルも乗船しており、
なんとなれば彼女のインフルエンサーとしての影響力を期待しての
試乗との役どころ。
しかし、乗り込んでいるセレブの面々は、
装いこそ煌びやかであるものの何処かいかがわしい。
武器の製造で財を成した者、或いは
「オリガルヒ」とも思えるロシア人。
またクルーたちも、乗客達からの多額のチップが目当てで
多少の我儘には目を瞑る所存。
資本主義の原理原則とは言え、
親の資産や真っ当でない金の出所に辟易をしてしまう。
そして最後のパートは無人島(?)。
豪華客船は海賊に襲われ沈没。
乗客と乗員の数人が流れ着く。
そこでは、社会的地位や金は何の役にも立たず、
サバイバル技術だけが全て。
実権を握ったのは、
清掃人チーフの中年女性との何とも皮肉な流れ。
社会的な通念はとことんコケにされ、
立場の逆転は環境次第で容易く起きてしまうとの寓意。
それがブラックな味付けで描かれ、
時として嫌悪感さえも覚える。
一方で若さや美への憧憬があるのは
何とも皮肉。
大揺れする船中での食事をした結果
吐瀉物まみれになるシークエンスは
長々と執拗。
富裕層を貶める描写は他にもあったのでは、と
かなり眉を顰める場面ではある。
直近の〔バビロン〕もそうだったが、
金持ちを描く際に、似た表現になってしまうのは何故に?