「心の棘」CLOSE クロース レントさんの映画レビュー(感想・評価)
心の棘
幼馴染のレオとレミは家族ぐるみの付き合いで、まるで兄弟のように仲が良く何をするのもいつも一緒だった。二人にとってそれは当たり前のことの様に思われた。中学に入学した二人のそんな姿を見た同級生からカップルなのかと聞かれ、からかわれるまでは。
この年頃の子供は何かと繊細で、また人生経験も浅いことから周囲の目がやたらと気になる。自分が女の子みたいだとからかわれたレオ、たわいもない子供の意地悪でもそれを深刻に受け止めてしまう。
そのせいでレミと距離を置くようになり、他の同級生たちとつるむようになったレオの変化についていけずさみしさを募らせるレミ。いつも二人一緒が当たり前だった、それなのにレオは自分を置いて行った。ショックを抑えきれないレミはレオと激しい喧嘩をしてしまう。
それからしばらくして遠足の日にレミの姿はなかった。何かせわしなく連絡を取り合う教師たちの姿を見て不安を募らせるレオ。学校には保護者達が迎えに来ているという。レオの不安は現実のものとなった。
それは誰のせいでもない不幸な出来事だった。でもレオはその事実をなかなか受け入れられない。どんなにホッケーの練習に没頭しようとも心から離れない。それはまるで心に刺さった棘のようにレオの心に居座り続け彼に痛みを与えた。
練習中に腕を骨折して治療を受けるレオは思わず泣き出してしまう。父は骨折したんだから痛くて当然だと慰める。でも痛いのは腕じゃない、心が痛いんだ。
レオは生涯この罪悪感を背負って生きていくのだろう。たとえレミの母親が許してくれても、けして誰のせいでもない不幸な出来事だったと言われても彼は自分を許せないだろう。
心に刺さった棘が年月を経て風化し、尖った先端が丸みを帯びてきて痛みが和らいでいってもそれは彼の心に居座り続け、何かのきっかけで不意に思い出される。そして棘はやがては粉々の塵となり彼の記憶の中に散らばり小さく見えなくなってもかすかな記憶として居続けるだろう、幼き頃の親友への思いとして。
未熟さゆえに何気ない言動で相手を傷つけてしまった、誰もが有するであろうそんな幼き頃の苦い記憶を思い出させてくれるノスタルジックな作品。少年期の繊細な心の揺れ動きを見事に描いた。
「コット 始まりの夏」に引き続きこちらも演技経験の少ない新人俳優による素晴らしい作品だった。光の演出も素晴らしく、花畑を疾走する二人の少年の姿が美しかった。本作も劇場鑑賞を逃したことが悔やまれた。