「アフリカのベナンからベルギーへ渡って来た少年トリ(パブロ・シルズ)...」トリとロキタ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
アフリカのベナンからベルギーへ渡って来た少年トリ(パブロ・シルズ)...
アフリカのベナンからベルギーへ渡って来た少年トリ(パブロ・シルズ)と年長の少女ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)。
トリは母国で迫害を受けたということで難民申請が認められたが、ロキタは現在、就労ビザの審査中。
今日も面接、口頭試問がある。
ふたりは姉弟と名乗っているが、実は地中海の密航船中で知り合ったのだった。
移民孤児の施設で生活しているが、母国にいるロキタの母に送金するためにふたりで隠れて仕事をしている。
ひとつはイタリア料理店でのカラオケショー、もうひとつはその料理店のコック、ベティム(アウバン・ウカイ)が扱う大麻の密売・・・
といったところから始まる物語で、ヨーロッパでは移民問題は避けて通れない。
ダルデンヌ兄弟も移民問題を正面から描くことになったが、正面から描くと、やはり犯罪などの闇世界を描かなければならなくなるのかと思うと、気が滅入る。
今回のダルデンヌ兄弟作品はこれまで以上にシリアスでサスペンスフル。
兄弟のうちフォトジェニックな映像表現にこだわる兄ジャン=ピエールの演出が強烈で、夜、自転車で疾走するトリの映像や、ふたりの密売のシークエンス、ベティムに性的サービスを強いられるロキタのシーンなど、リアルで丹念ながら、実に歯切れがよい。
後半の大麻栽培工場では、丹念な栽培作業と精神的に疲弊しパニック障害を起こしてしまうロキタのつなぎもよく、トリが侵入するシークエンスもスリリング。
そんな、これまでにない娯楽要素も交えながらの映画なのでハッピーエンドだったらいいんだけれども、ダルデンヌ兄弟の映画だから、そうはならない。
その終盤のシーンも、驚くほどあっさりと即物的に描かれていて、かえってショック度が増しました。
なお、トリとロキタがカラオケで歌うフランス語曲はシルビー・バルタン「恋のショック」。
「メリーさんの羊」が元歌ですね。
イタリア語曲は「Alla fiera dell'est」。
東の市場で、父さんが二銭で子ネズミ買った・・・というものですが、どんどん数珠つなぎになっていきます。
映画では途中までしか歌われないのですが、最後は、
最後に、神さま現れた。
ぼくの父さんが市場で買ったその子ネズミを
食べた猫に嚙みついた犬を叩いた棒切れを
焼いた炎を消したその水を
飲んだ牡牛を殺した肉屋の上に
現れた死神の
そのまた上に
神さまが最後に現れた
となるようです。
ダルデンヌ兄弟がこの世に少し希望を残したというわけですね。