「搾取され、使い捨てられる人々。」トリとロキタ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
搾取され、使い捨てられる人々。
いまや移民の数は世界で2億5千万人以上いると言われている。多くは国内紛争や貧困から逃れてきた人々だ。
彼ら移民は時には遭難により海上で命を失ったり、あるいは人身売買の対象となったりとその生命や人権が侵される事態が後を絶たない。
彼らを守るため国連による国連移民協定が採択されたが、世界は一枚岩とは行かず弱い立場の移民にとってはまだまだ受難の時は終わらない。
アフリカのベナン共和国から移民としてベルギーに渡ってきたトリとロキタ。トリは虐待を理由にビザが下りたがロキタにはなかなか下りない。真の姉弟かを疑われたためである。
何とかビザを手に入れて家族に仕送りしたいロキタだが、密航業者からの仲介料の取り立てや家族への仕送りのために麻薬の売人のような非合法な仕事や性的搾取に甘んじなければならない。麻薬密売業者も彼らの弱みを知ったうえでいいように利用している。
ある日ロキタは違法にビザを手に入れられるという誘いで大麻栽培工場で働くこととなる。しかし、まだ十代な上にパニック障害を抱える彼女はトリと共に逃げ出して結局は業者に殺されてしまう。
共に異国の地で姉弟のように助け合って生きてきた二人は無残にも引き裂かれることとなる。
この移民の受難の物語は欧州が舞台だが、これは日本を舞台にしても成り立つ話だ。
なにかと問題のある外国人技能実習制度は途上国への技術援助などとは名ばかりであり、実質途上国の人間を安い労働力として搾取しているのである。
日本に来る実習生たちは仲介業者に多額の借金をして来日する。そして安い賃金から借金を返しつつ仕送りもしなければならない。
だが、職場環境は劣悪で差別から虐待を受けることも多い。あまりの過酷さから逃げ出す実習生は後を絶たず、そのまま在留期間が過ぎれば不法滞在となり入管に収容される。そしてその入管でも酷い扱いをうけ、最悪死に至ったケースもあるのは周知のとおりだ。
自国優先主義、排外主義が台頭するいまの社会。富めるものが貧しいものを搾取するこの社会構造がなくならない限りトリとロキタのような悲劇は永遠になくならないのだろう。
けして目を背けてはいけない問題を知らしめてくれる良作だった。