「グロを超越した耽美的美しさ」クライムズ・オブ・ザ・フューチャー kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
グロを超越した耽美的美しさ
グロテスクな肉体ホラーの名手、デビッド・クローネンバーグ監督の最新作。
80歳という年齢を感じさせない、先鋭的でかつての作品に原点回帰したようなボディホラーの名作を完成させた。
時は近未来。
未来ではあるが、建物は古典的でテレビはブラウン管の古びたテレビ、所謂レトロフューチ
ャーの世界観だ。
この世界で人々は痛みの感覚を失っている。
アーティストのソール(ヴィゴ・モーテンセン)は自らの体内で生み出した新しい臓器をパートナーのカプリース(レア・セドゥ)が手術で摘出するアートショーを公開している。
そこへ、人間がプラスティックを食べて生きていける進化を目指す組織を主宰する男がソールに自分の息子の死体を解体するショーを行なってほしいと現れる。
新しい臓器を秘密裏に管理する政府の組織、手術台のメンテナンスをする器具メーカーの2人の女性などが絡み、謎めいた物語が進行する。
甲虫の内部のような安眠ベッドや食べ物を普通に咀嚼できない人をサポートして奇妙に揺れながら口に運ぶ器具など、その世界観は奇妙奇天烈。
ただ、その世界観は見事にこの物語と調和しているのだ。
2時間弱、このクローネンバーグの世界に身を委ねるだけでも価値がある。
人間の外見と中身(内臓)、常識的な人体の機能をクローネンバーグは解体し、新たな美しいものとして再構築している。
人体を切り刻んだり、全身に切り取った耳を縫い付けるパフォーマーなど、変態感覚を受け付けられない人は多いと思うが、もはやグロを通り越した耽美的な美しさを感じる。
ボディーホラーの名手はホラーを超越しアートの領域まで高めたのではないか。
巨匠にはまだまだ、見たことのない不気味で美しい映画を期待したい。