「グロテスクを芸術へと昇華させた未来の人間の行為に快感を覚える衝撃作」クライムズ・オブ・ザ・フューチャー yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
グロテスクを芸術へと昇華させた未来の人間の行為に快感を覚える衝撃作
人類が、パンデミックを経て「痛みの感覚が消える」生物学的進化を遂げた近未来世界の話。
主人公のソールは、体内で新しい臓器が頻繁に生成される「加速進化症候群」という病気を抱えている。新臓器は体内では機能しない無駄な臓器であるため、摘出しないと寿命を縮めるらしい。ソールのパートナーであり元執刀医のカプリースが都度新しい臓器を摘出するのだが、もはや人類には痛みが無いので、麻酔など必要なく身体を切ることができる世界。だから彼らは臓器の摘出を「手術」ではなく「パフォーミングアーツ」として表現するアートユニットとして活動し、人気を博していた...。人類の進化を管理したい政府は、臓器登録所を設立し、ソールの進化も注視する。そんな彼等に、生前プラスチックを食べていたという男の子の遺体を解剖してほしいとの依頼が舞い込む。
…何この設定面白すぎん?!?!?
監督は1999年の時点で脚本を書いており、適切なタイミングで世に出したいと20年間温めていたらしい。2023年現在、コロナ罹患もワクチン接種も一通り経験し、もしかしたらCovidウイルスに対して何等かの身体的進化があってもおかしくないと思えてくる今日この頃…リアリティを感じてしまう完璧なタイミングでの公開だ。プラスチックを食べる人、という設定もマイクロプラスチックが問題になっている今、確かに人間がこう進化すればいいじゃん…と思わされてしまう妙な説得力があった。劇中の政府はこの進化を阻止しようと見せておきながら、実は利用しようとしているのではないか…?
それにしても、身体を切って臓器を取り出すという行為が、確かにアーティスティックにも、なんならエロティックにも見えてくるのだから自分でも驚きだ。この世界観の作り方と魅せ方は、デビッド・クローネンバーグ監督の恐ろしき手腕であり、俳優陣の素晴らしい演技によるものだろう。
自分たちが生み出した環境変化において、進化せざるを得なかった人間たちが、失われた痛みに憧れ、グロテスクだった行為を美しい芸術へと昇華させる「愚行」とも「美挙」とも言える姿を見て、こんな未来への想像と興味が止まらない。快感…