「痛みや感染症を克服した人類に訪れた未来の物語。 浜辺で海岸の石ころ...」クライムズ・オブ・ザ・フューチャー りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
痛みや感染症を克服した人類に訪れた未来の物語。 浜辺で海岸の石ころ...
痛みや感染症を克服した人類に訪れた未来の物語。
浜辺で海岸の石ころをほじくっていた男児は母親から注意を受ける。
見つけたものを食べてはいけませんよ、と。
家に戻って来た男児は洗面所のプラスティックバケツを齧って食べ始める。
その夜、母親は男児を枕で窒息死させてしまう・・・
といったところからはじまる物語で、映画の主人公はパフォーマンスアーティストのソール・テンサー(ヴィゴ・モーテンセン)。
彼は、加速度的に新種の臓器を発生させる体質の持ち主で、パートナーのカプリース(レア・セドゥ)とともに、新種の臓器を公開で摘出手術するパフォーマンスを行っていたのだ。
一方、政府は「オルガン・レジストリ(臓器登録所)」を秘密裏に立ち上げ、ラング(スコット・スピードマン)とティムリン(クリステン・スチュワート)を調査員として活動させていた。
警察は、テンサーのパフォーマンス活動に触発された人体破壊パフォーマンスを行う輩を取り締まる「ニュー・ヴァイス(新犯罪)部門」を設置し、テンサーを秘密捜査官として協力を要請していた。
アーティスト仲間から謎の整形外科医のもとへ赴くよう伝えられたテンサーは、結果として「オルガン・レジストリ」と接触し・・・
と展開。概ね、ダークな犯罪映画の外格となる。
ま、とにかく、手術場面が苦手なひとには不向きな場面が巻頭しばらくしてから登場し、ねちゃねちゃ感は『ビデオドローム』を凌駕している。
クローネンバーグ監督にとっては、人体破壊、変異する肉体、痛みに対する嗜好、さらに肉体とテクノロジー(といっても物理的テクノロジーなのだが)は、先に挙げた作品以外にも『ザ・ブルード/怒りのメタファー』『スキャナーズ』『ザ・フライ』『戦慄の絆』『クラッシュ』と数多いが、今回はその中でも飛びぬけている感じで、テンサーとカプリースが用いる奇怪な手術台は、『戦慄の絆』の出産手術器具や『ザ・フライ』の物質転送装置をよりグロテスクにしたものと言えるでしょう。
その後、ニュー・ヴァイス(モグリの新種臓器の摘出パフォーマンス)の捜査に、冒頭の男児の両親が絡んできて、事態はますます不可解なものになっていく。
プラスティックバケツを食べていた男児は、その能力を父親から遺伝で受け継いだものだが、男児の父親のプラスティック消化器は移植によるものだった。
移植した生体能力が、遺伝するものか・・・
男児の父親は、プラスティックを主食(というか他のものは食べられない)とする新人類グループの首魁で・・・
おおぉ! おおぉ? ミュータント?
キリンの首は突然伸びたのであって、徐々に伸びたわけではない。
人類の突然変異。
ということは、これはクローネンバーグ監督よるリアル・スーパーヒーロー映画なのかもしれない。
リアルな変異はグロテスクという。
異常気象による食糧不足、過剰なプラスティック廃材・・・
そんな中で人類が生き残るとしたら、こういう悪夢のような姿にならざるを得ないのかもしれません。
なんとも気が滅入るなぁ。
なお、製作はカナダ・ギリシャの合作、ロケーションの多くはギリシャのようです。