聖地には蜘蛛が巣を張るのレビュー・感想・評価
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いつも叩かれるのは女性だ
宗教と貧困の糸に絡め取られた女性たち。鬼才アリ・アッバシ監督が事件の顛末を(逮捕されてから少し疲れた…)、最後まで現実を見据えたトーンで描く。"そんなこと鵜呑みにするか?"ということを信じる犯人は、人間にとって妄信しがちな信仰心もまたそれくらい怪しく脆いものだと顕にしているようだった。そして、正義面して父の粛清を継ぎそうな息子に、父のいない中でこれから貧困によって"そうなる"可能性もある少女の眼差しは社会に向けられている。…なんていう終わり方だ。
身体的・社会的不利もあり食い物にされながら、痛みや叫び(あるいは功績をも)は無きものとかき消され、にも関わらず世間に出れば槍玉に上げられるのもまた彼女たちだ。乗れよ。お金は?自身もそうしたハラスメント男尊女卑・女性嫌悪社会の図式に絡め取られた過去のある女性ジャーナリストと、家庭のある犯人のパートが交互に描かれる作り。警察側の捜査のトップも端的にクソ過ぎた。
信仰と命
結構な衝撃を受けた「ボーダー 2つの世界」のアリ・アッバシ監督の最新作と言うことで公開を心待ちにしていた作品。
アジアや中東には女性が学んだり、働いたりする事を良しとしない国があるというのは知っていたが、一人でホテルに泊まる事さえもできない、つまり女性は男性の所有物に過ぎないという考えが当たり前の国があるというのは正直言って驚いた。
宗教による戦争が絶えず、毎年多くの人が亡くなっていることからすれば、如何に貧困が理由であっても信仰に背き売春をする女性の命の重さなど虫ケラ同然と言ったところか。
主人公の女性ジャーナリストが自らの危険を犯してまでも犯人を捕らえたいと思ったのは、女性が生きにくいこの国の制度や慣習に対しての強い怒りからで、それはそのままイランで生まれ育ち、北欧を生活の拠点としているアリ・アッバシが抱いている感情そのものであり、彼だからこそこの映画を製作し世に発信できるのだと思った。
実話のもつ現実の複雑さが素晴らしかった。ジャーナリスト自身がハラ...
実話のもつ現実の複雑さが素晴らしかった。ジャーナリスト自身がハラスメントに会い、女の二分法の中で警察のトップに貶められ誘惑されるシーンは最も怖い。
犯人自身が、聖戦イデオロギーの犠牲者でもあるが、父がどういう関わりをしていたのか、否認に加担する妻戸子の異常性も怖い。
また被害者がほぼ貧困者であること。
歪んだ正義感が暴走する時
アッバシ監督さん、何てもの見せてくれるんだ。この残酷な世界を見なかったことにするのか、それとも監督が提示した難題に頭を悩ませ続けなければならないのか。
聖地マシュハドの聖廟近くで客を待つ売春婦に対して憎悪を抱くサイード。彼が売春婦を殺すきっかけは語られていない。些細なことで怒りを爆発させるシーンで、兵士時代になんらかのトラウマを持つに至ったことが窺い知ることができる。
サイードの連続殺人が明るみに出ても、聖地を浄化した英雄として崇める民衆が多く、サイードの裁判は政治的な側面を見せ始める。
警察、検察、裁判官は心情的には、サイード寄りだと思うが、国際的、政治的に公正な裁判であることが要求されていて、下手なことはできない。特に裁判官はイスラム法学者として、後世に汚名を残したくないのだろう。微妙な表情から、そう感じた。
イスラム共和制という名の元で、制限される女性の人権、虐げられる女性。それを当然と思う男社会。それをテーマにしながら、先が読めないサスペンスフルなストーリーで、ラストは二段構えの強烈なパンチで、心が折れます。なんか『ダンサーインザダーク』を思い出してしまった。
ドラマ『The Last of Us』で、エンタメ作品を撮らせても文学性が滲み出てしまうアッバシ監督。今回は、テーマ性があるのにエンタメ性を発揮する異能ぶりでございます。
震撼としました
イラン映画が世界を席巻する日も近い
珍しく違和感ない邦題。
中東の人々の顔は肌色・シワ・髭・濃いメイクまで 総て画になる色気がある。
邦人にはなかなか肌感覚で掴めない厳しい規律と退廃の差異こそ魅力だ。 映画越しでないとなかなか触れない異邦地の匂いや湿気に身を置ける生々しさが楽しい。
イランで実際に起きた娼婦連続殺人事件を基に 描かれた作品 「街を浄...
負の連鎖
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