劇場公開日 2023年4月14日

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聖地には蜘蛛が巣を張るのレビュー・感想・評価

全112件中、1~20件目を表示

4.5“無自覚な加害者”になっていないか。この問いは日本人にも他人事ではない

2023年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

イランのマシュハド市は首都テヘランに次ぐ同国第2の大都市で、イスラム教シーア派の聖廟に多数の信徒が訪れる巡礼地でもある。日本の都市にたとえるなら、大阪市と京都市を足して2で割った感じだろうか。そんなマシュハドで2000年から2001年にかけて実際に起きた娼婦連続殺人事件に着想を得たドラマ映画だ。

監督・共同脚本のアリ・アッバシは、2018年の前作「ボーダー 二つの世界」(カンヌ国際映画祭ある視点部門でグランプリ受賞)で国際的な名声を博した。イラン出身のアッバシは、2002年から留学してスウェーデンで建築学を、デンマークで映画の演出を学び、以降はデンマークを拠点に活動している。事件当時まだイランに住んでおり、16人もの女性を殺害した犯人サイード・ハナイが一部の市民や保守派メディアから英雄として称えられたことに違和感を覚え、いつかこれを題材に映画を作ろうと思ったという。

映画は2つの視点で構成される。第1は、聖地で売春を行う女性たちを汚らわしい存在とみなし、「街を浄化する」という使命を自らに課して、客を装い娼婦を自宅に招き入れて殺害する犯行を重ねていくサイードの視点。原題の「Holy Spider」に比べて邦題の「聖地には蜘蛛が巣を張る」はかなり説明調だが、男が自宅(=巣=罠)に獲物を誘い込んで命を奪う手口から、実際の事件の報道でも犯人は“蜘蛛”に例えられていたのだとか。本編を注意深く観るなら、序盤に映る夜の街の俯瞰ショットで、モスクのある中心部から放射状と同心円状に広がる街路と建物の明かりで浮かび上がる夜景が、まさに蜘蛛の巣ように見えることに気づくだろう。

そして第2は、女性ジャーナリストのラヒミの視点。彼女はある事情でテヘランの大手報道機関の前職を解雇され、進行中の連続殺人事件を追うためマシュハドを訪れている。ラヒミ役のザーラ・アミール・エブラヒミはイラン出身の女優で、2000年代に同国のテレビドラマなどで人気を博するも、06年に元交際相手と彼女の性行為を撮影したものだとされる動画が流出してスキャンダルに。エブラヒミに非がない上に動画の真偽も定かでないにも関わらず当局から収監されるリスクが生じ、08年にイラクを脱出してパリに移住(後にフランスの市民権を得ている)。こうしたイランでの理不尽な処遇が、演じたラヒミ役の過去やマシュハドでの被差別的なエピソードに反映されている。

本作で描かれているのが、日本とは別世界のイスラム圏で起きた異常な連続殺人事件の話だと決めつけてしまうと、貴重な教訓を得る機会を失うことになる。男尊女卑、ミソジニー(女性嫌悪)がまかり通る社会で、16人の娼婦の命を奪ったサイードは、一部の市民から、また妻子から英雄視された。令和の日本から眺めたら確かに異常だと感じられるが、では半世紀前の昭和の時代、さらにさかのぼって戦中・戦前の男女格差や、性的・人種的マイノリティーに対する差別はどうだったか。つまり、倫理観や道徳観は地域や時代で移り変わる相対的なものであり、たとえば現在の常識で当たり前だと感じる他者への言動であっても、また時代が変われば攻撃的だとか暴力的などとみなされる行為と断じられる可能性だってあるということ。世の中がそうだから、みんながやっているからということを行動の基準にすると、無自覚な加害者になってしまうリスクを避けられない。正義だと思ってやっていることに、もしかしたら加害性があるのではないかと、疑ってかかること。「聖地には蜘蛛が巣を張る」にはそんな問いかけが含まれている。

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高森 郁哉

4.0事件が辿る異様な展開に震撼させられる

2023年3月31日
PCから投稿

かつて北欧映画「ボーダー」を観た時の胸騒ぎが忘れられない。周囲との距離感、はたまた自分は異質な存在なのではないかという疑念はイランを舞台にした本作(内容は全くの別物だが)でますます顕著化しているかのようだ。もともとイランで生まれ、大学で学ぶために北欧での生活を始めたアリ・アッバシ監督にとって、二つの領域の間で揺れる日常は極めて身近なものだったはず。そんな彼が二十歳前後だった2000年初頭、母国で起こったのがスパイダー・キラー事件だという。このクライムサスペンス映画が特殊なのは、娼婦をターゲットに殺人を繰り返す犯人の素顔を最初からはっきりと写しつつ、そこに女性記者の奮闘をも描きこむところ。そうやって浮かび上がるのは、女性への文化的、宗教的抑圧の状況だ。単なる犯罪劇を超えた異常事態が蜘蛛の巣の如く社会へ広がっていく様に震撼させられる。リスキーな役柄に身を投じた主演二人の演技も実に見応えがある。

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牛津厚信

4.5第二のスパイダーキラーと第二の被害者

2024年10月17日
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鑑賞方法:VOD
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つとみ

4.0映画としては楽しめた

2024年9月11日
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鑑賞方法:VOD
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クゥラン

3.0どこまで咀嚼すればいいか

2024年7月31日
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宗教観や、地域性、性差別、、あらゆることをこの映画から学ばされるが、
日本で生まれ育ったわたしには、ただただ胸糞悪い後味だけが強烈に残ってしまった。

どこまで考えて受け止めればいいのか。

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Ykkuoo

3.5映画を見て知ったこと

2024年7月13日
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鑑賞方法:DVD/BD

楽しい

怖い

実際に起こった事件を題材にしているとのことですが、殺人鬼の犯した罪は国や宗教の違いからとかではなく、人間として全く理解できません。
怖かったとか、悲しい等の感想で済ませたくないような内容ですが、こんな酷い事件がイランでは起こっていたという事実が知れたのは意味のある事だと思います。

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YOTSUBA

3.0裁き

2024年6月30日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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りか

3.5娼婦の扱い

2024年6月7日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

怖い

 2000年代初頭、イランの聖地マシュマドで、娼婦ばかりを狙った連続殺人事件が発生。蜘蛛殺しと呼ばれる犯人は「街を浄化する」すると声明を雑誌に送りつけ、住民は不安になる。妻子持ちのザイードは、家族に犯行を知られないようにするも、自らの行いに使命感を持っていた。女性ジャーナリストのラミヒが、警察をあてにせず事件を追う。
 実際の事件をもとにした作品。娼婦ばかりを狙ったシリアルキラーは、いままで何人も実在して、そのおぞましい精神が注目されます。今作で目を引くのは、それよりも周囲の反応でした。街を浄化するするという犯人を英雄視し、息子は胸をはる。娼婦に対するあまりの扱いに、驚きました。イランの裁判や刑罰も興味深いです。

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sironabe

4.0永久保存版🙆‍♂️

2024年6月2日
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単純と言えば単純だが、実は奥の深いストーリーである。自分には刺さった。

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@Jankichi@

3.5後味の悪さが残る

2024年6月1日
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める

4.0犯罪が無実化する寸前

2024年5月26日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

怖い

興奮

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ノブ様

3.5実はおもしろい。

2024年4月29日
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鑑賞方法:映画館

映画を観ただけでは、
息子が心配、
キービジュアルが彼女なのはなぜ?
宗教建築が美しい
死人役がみんなうますぎる
とか、浅い感想しか無かったのだけど、

監督がCINRAのインタビューで
一線を越える人間と超えない人間の境界に興味がある
的なことを話していて、
そういう視点で思い返すと
おもしろいなぁと思った。

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ひかりすぎ

5.0凄惨で恐ろしい映画

2024年3月3日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

興奮

知的

この映画はイランで実際に起こった事件を着想して作られた映画のよう。凄惨で恐ろしい映画でした。娼婦である女性が、理由なく次々と殺されていきます。イランという国の裁判の様子が分かったこと、とても有意義でした。アリ・アッバシ監督には、これからもイラン社会の抱える問題が分かる映画を作って欲しいと思います。ありがとうございました。

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のりあき

4.0良かったのだけど、おっさん結局ただの変態なんじゃ、という描写が要ら...

2024年1月21日
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鑑賞方法:DVD/BD

良かったのだけど、おっさん結局ただの変態なんじゃ、という描写が要らなかったなあー。あくまでも純粋に浄化なのだと信じてる人であった方が、作品に合ってたんじゃないかな。

イランてひどーいとか言ってる場合でなく、例えば不倫を悪だ不道徳だとみんなして責めてるとか、日本も同じよねー。

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まるぼに

4.5みごと

2023年11月12日
Androidアプリから投稿

犯人も犯行動機もかなりの冒頭で明かしてしまってどうするんだろうと思ったら捕まってからが本筋でしたね。かと言ってそれまでがダラダラツマラナイわけでもない。ラストのインタビュー動画は秀逸。舞台がイランだとなのか、監督がイラン人だとなのか理屈はわからないけど、イラン絡みの映画って質が良すぎる。どうしょうもないイラン映画は日本に入ってこないのか。イヤでも正直この犯人気が狂ってるよ。

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三毛猫泣太郎

3.5人ごろしを英雄視する世界

2023年10月11日
PCから投稿

主人公の女性記者こそ架空だがイランのマシュハドで16人の売春婦が殺害された実話にもとづいている。

映画の撮影中当局からの妨害に遭ったほか主演のザル・アミール・エブラヒミがカンヌで女優賞をとるとイラン文化省からフランス政府に「侮辱的で政治的動機に基づく行動」との抗議声明が発表されたという。のちにエブラヒミは何百という脅迫を受けたとCNNに語っている。

ザル・アミール・エブラヒミはもともと2000年代にもっとも人気を博したイランのテレビドラマのヒロインだったが、セックステープが出回って謹慎を余儀なくされたばかりでなく、誹謗中傷の標的になりイランからフランスに亡命したという来歴がある。──そうだ。

イスラムの男社会に蹂躙され放逐された彼女のキャリアは気骨ある女性記者を演じるのに適任で、冷たく射るような眼窩から屈強な信念を感じ取ることができる。

映画は一種のクライムサスペンスで殺害シーンなどリアルに描いているがその怖さよりも16人もの女性をしめコロした男を“聖地を浄化した英雄”と崇めるイスラム社会のほうがずっと怖い。

おりしもテロ組織ハマスの奇襲攻撃(2023/10/07)があり、ニュースは第5次中東戦争が勃発したと叫んでいるせいもあって、余計にこの映画の背景にあるイスラム世界にストレスをおぼえた。

(無知な素人の雑感に過ぎないが)宗教がらみの国家はまともじゃない。ヒジャブの問題にしろかれらは弱者を迫害するのがどう見ても好きな連中だ。

監督のアリアッバシは(ネットで拾い読みしたインタビューの中で)「彼らはセクシュアリティに取りつかれている」と言い、イランという国は当局が「女性を辱めることにある種の快感を得ている」と指摘していた。同感だった。

(真偽は不明だが)Tiktokにハマスらがイスラエル南部でおこなわれていた音楽祭を襲撃し裸にむいた民間人女性をトラックの荷台にのせて「アラーは偉大だ」と叫んでパレードする様子があがっていた。女性はたんにふせているのかシんでいるのかはわからない。親近者がかのじょの足にほどこされたタトゥーから識別・確認したそうだ。

宗教や思想下では善悪が形骸化するものだ──と考えてみても、わたしたちの日常とあまりにもかけ離れた残虐な世界線を受け容れることができない。なぜそんなことをするのか。なぜそんなことができるのか。

この映画が怖いのもわたしたちの世界との違い──あまりにもかけ離れていること──によっている。解りやすく言うと(解りやすくなるか不明だが)マシュハドの夜街頭に立たなければならなかった女性と大久保公園の立ちんぼの違い──のような。

だいたいわたしたちの世界線では勘違いした新聞記者が反体制映画を書いたとしても“当局”から叱られるなんてことはない。

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津次郎

3.5名誉殺人

2023年10月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

知的

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レント

3.5一筋縄では行かない事件の背景を描く

2023年10月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
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琥珀糖

4.0ラストのアレがフィクションでないなら悍ましいことです。

2023年9月4日
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鑑賞方法:映画館

ラストのアレがフィクションでないなら悍ましいことです。

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teraox

5.0イランの聖地で起きた娼婦連続殺人と世界の繋がり

2023年9月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

実話に基づいた映画
映画が作られる元の話は、2000年から2001年のイラン第2の都市であり、シーア派の聖地でもあるマシュハドで起きた娼婦連続殺人事件である。16人の娼婦が犠牲となった。この事件を題材にした映画はこれが初めてではなく、「キラー・スパイダー」という映画が既にあった。この映画の製作者は今回映画を盗作だと主張しているらしいが、鑑賞する側としては、別の視点で事件を見ることが出来るので歓迎だ。
事件の背景に宗教の聖地の保守的な雰囲気
殺人の対象はすべて娼婦であり薬漬けにまでなっているものもいる。そんな彼女たちを殺して「浄化した」と新聞社に事を起こす度に通報するという行動に彼になかにある歪んだ正義感、偏狭な世界観が浮かび上がる。街を恐怖に陥れた事件だとしているが、犯人の行動パターンは知れ渡っており、犯人を英雄視する雰囲気があり、それが逮捕後に大きな運動となる。この映画は「イラン政府への批判でも、腐敗した中東社会に対する批判でもない。一部の人達、中でも女性に対する人間性の抹殺は、イランに限ったことではなく、世界中のあらゆる場所で起きている。(映画の公式HP日本版「『聖地には蜘蛛が巣を張る』が描くもの」より)と説明しているが、当のイラン政府がそう理解しないことが想像できる。実際、イランの文化・イスラーム指導省の映画機関は、カンヌ国際映画祭が本作に女優賞を授与したことを「政治的な意図を持った侮辱的な動き」と非難する声明を発表したとのことである。
本当の驚きは最後に
ストーリーは殺人犯は誰かというようなものではないし、犯人とそれを追うジャーナリストの駆け引きというようなサスペンスでも全くない。だから殺人事件の犯人が捕まって終わり、ではない。映画の展開は後半になるほど目まぐるしくなる。犯人の有罪が確定してもまだ終わらない。最後が女性ジャーナリストが取材を終えて現地から離れた後なのだ。
近年には稀な生々しい殺人の描写
殺人犯の残虐な殺人の様子が生々しく描写されている。なぜここまで残酷なシーンを見せる必要があるのか。オカルト映画的な表現もある。事件の残忍性を伝えるための描写とする評論もある。その生々しい描写が映画の最後に見事に繋がるので、最後まで見放せない。宗教の聖地だからこそ起きた事件なのか欧州の国は時に「表現の自由」を振りかざし、ムスリムとの摩擦を引き起こす。ムスリム女性の人権が十分に尊重されていないという問題は存在しないとはいえない。しかしながら筆者が想像するに、イラン・イラク戦争後のイランでこのような事件が起きる環境を作ったのは、イランだけに責任のある問題とは言えないのであるまいかと思うのである。約10年に及んだこの戦争で、国は疲弊したはずだし、多くの男性兵士が犠牲になったであろう。当然、その兵士には家族があり、家族にとっては大黒柱を失ったことだろう。ただでさえ米国の経済制裁により一般の市民の生活も楽ではないはずだ。そのような遺族の生活はどうなるのか。
遺族が救済されない理由とは
イスラムは一夫多妻制が認められているので、男性は未亡人を第2、第3の妻に迎えることができる。これは本来、ジハードで夫を亡くした女性の生計を助けるための制度であるらしい。では、イラン・イラク戦争で犠牲になった兵士の妻は救済されたのであろうか。筆者はそのような人は極めて少なかったと考える。なぜなら、この戦争に明確な勝者はないから、戦利品も賠償金もない。したがって、第2、第3の妻を迎えて生活していく経済力のある人も発生しない。さらにイラン革命から敵対する米国からの経済制裁を受けているため経済的にも困窮している。このため、第2、第3の妻を娶った男性はほとんどいなかったであろう。それまで多妻制のなかで暮らせていた女性が捨てられたケースもあったのではないか。こうしたなか要因も、聖地に困窮者が集まる要素ではなかったか。そもそもイランで困窮者が生まれる事情についても考察しなければこの事件の背景を理解したことにはならないと筆者は考える。
聖なる蜘蛛たち
蜘蛛は多くの人にとっては歓迎されないが、害虫なども食べてくれるの益虫でもあり、地球上の生態系のバランスを調整する働きを担っているといえる生物である。この事件で直接的に蜘蛛として表現されたのは犠牲者となった娼婦たちであった。イランで蜘蛛とはどのように理解されている生物なのかはわからなかったが、犯人の表現だとすると否定的な意味の可能性がある。冒頭に映し出されたマシュハドの夜景は蜘蛛(あるいは蜘蛛の巣)を形作っているようだった。昼間はシーア派の聖地という顔を持つが、夜には彼女たちのような蜘蛛を生み出す顔がある、そうした比喩がこめられていたのだろうか。犠牲者たちは腐敗しているから蜘蛛になったのではない。一人一人が尊厳ある人間で懸命に生きていたのだということをこの映画のタイトルから想う。

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ブログ「地政学への知性」