「この平和をもう一度噛みしめる、あまりにも凄惨で苦しい現実」島守の塔 たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
この平和をもう一度噛みしめる、あまりにも凄惨で苦しい現実
何かと沖縄を考える年だと思うのは、沖縄本土復帰50年の節目を素人ながらに感じていたからだろう。そんな節目に、知らなかった沖縄の姿…いや、戦火を見る。
沖縄に対して知っている知識が少なく、自分は地上戦があったことくらい知らなかった。ぼんやりと島田叡氏の存在を知っているくらい。それを自身の知識不足というべきだと思うが、やはり風化ゆえに触れる時間が少ないとも思う。
そうした中、沖縄にあった戦争の悲劇を今作で受け止める。単純な伝播ではなく、実際に撮られた映像を挟みながら伝えていくので、緊張感と重い溜め息が漏れる。実際はもっと酷かったのだろうと思うと本当に苦しい。予算や制約がある中でも、緊迫した空気と言葉が刺さってくる。
その重みを重々受け取った上で感じたのが、群像劇にしてはピントが絞り切れていない所。全体的に伝記的な要素のまま終わってしまったように感じる。島田叡氏と荒井退造氏の「生きろ」とした市民の命の願い。受け取った比嘉凛の立ち振る舞い。そこに宿った熱い生に心を焦がす。
だが、状況によって変わっていく個々の立場を汲み取りながら観ていくのが少々難しかった。だからこそ伝記的な要素を感じつつ、その状況の中で生きた姿を重く受け止めることが出来た。本当に有った話だと、今もそこを咀嚼するには時間がかかるが…。この国に生まれたからこそ考えていきたい。
本作の主演は、萩原聖人さんと村上淳さん。2人とも舞台挨拶で語っていたのが、監督の潤たる思い。1年8ヶ月の中断を経て完成された本作に万感の想いを感じつつ、互いの置かれた状況の中で全うする姿が勇ましい。実際に島田叡氏と荒井退造氏が消息不明のままである点も感じる所があり、凄く丁寧に演じられている姿が印象的だった。
そして、吉岡里帆さんと池間夏海さん。それぞれの境遇の中、強い眼差しで未来を展望する姿に確かな生命力を感じる。無垢な瞬間との対比は切なくも強い。
順次公開のため、あまり話題にはならないかもしれない。しかしながら、この平和に至るまでの過去を今作から考えてほしい。今が当たり前ではなく、尊いものだと感じるはずだ。