劇場公開日 2022年7月9日

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「潜在的タブーテーマの衝撃作」WANDA ワンダ シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5潜在的タブーテーマの衝撃作

2024年10月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

一昨年位に公開された時に気になってはいたが見逃して、やっとAmazonで配信されていたので早速鑑賞しましたが、劇場で見れなかったことに凄く後悔しました。
失敗したなぁ~、予想を超えた傑作であり問題作でした。

1970年ベネチア国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞したバーバラ・ローデン監督・脚本・主演のロードムービーで、当時アメリカ本国ではほぼ黙殺された作品だそうです。
1970年といえばアメリカンニューシネマのムーブメントの真っ只中であり、本作もその様な作品なのかと予想していたのですが、全く違っていましたね。
私自身アメリカンニューシネマの影響を受けて育てられたので余計に分かるのですが、テーマの核になるモノが全く違っていました。
所謂今に残るアメリカンニューシネマの傑作作品群は、当時の社会性というか時代性から生み出された作品ですが、本作は(ルック的には似通っていますが)時代性よりも、人間の普遍性を描いた内容になっていました。だからこそ半世紀以上経った今になって発掘されたのだと思います。本作の持つテーマは今でも(いや、今の方が)切実に感じられる問題だからです。

見終わって感じたことなのですが「本作の様な問題を扱った映画って、あまり見かけないよなぁ~」って事ですかね。
上記した様にアメリカンニューシネマなどの作品でもその時代の社会の問題を扱っていますし、昔から映画というモノは差別や暴力や犯罪や戦争などの社会問題は扱っても個人の能力的な優劣を問題にした作品は殆ど無い。ひょっとしたら、業界内でタブー視されているのかも知れませんが…、しかし現実社会では何よりもこの問題が、この社会で生きる人々にとっては一番大きな問題になって来る。
だからこそどんなに優れた作品を鑑賞しても、映画は何処か夢物語であったり、現実社会との乖離を感じざるを得ない。
当時の社会批判真っ只中のアメリカで何故黙殺されたのか?の原因を考えると、本作が余りにも普遍的人間性の真実を突いているので観客にも敬遠されたような気がします。

もう少し具体的に考察すると、最近You tubeでインフルエンサーのホリエモンがよく口にする表現ですが「境界知能」を扱った作品だと思えます。
大雑把に説明すると、知能指数分布を五つに分割して下から①“知能障害:5%”②“下位境界知能:15%”③“平均:60%”④“上位境界知能:15%”➄“天才:5%”(あくまでも目安の数値)に人間の知能的な優劣が存在していて、①と③~➄は映画の素材としても取り上げられますが、②については殆ど取り上げられません。
“社会不適合者”という言葉はよく使われ、①~➄まで全ての分布の人間にそのような要素はあるのですが、特に①と②は社会生活をする上で確実に社会的なヘルプが必要になるのです。それが、①の場合の支援は誰にでも理解できるのですが、②位の場合が国や社会や状況によって理解されない場合が多く(②と③の区別が表面上分らない為)、社会も一般人も見えないフリをしたがる(虐げる)存在になりやすく、社会自体がその存在から自ら目隠しをしたがる、かなり深刻な社会問題だと個人的には思っています。

本作の主人公が完全に②に位置するキャラクターなのは確実なのですが、この様な人達にスポットを当てた作品など今まで殆ど見たことが無かったし、社会そのものが見えないフリをしている存在自体をテーマしている作品という事で、個人的には非常に衝撃的な作品となりました。

追記.
少し前に見た『冬の旅』も非常に衝撃的な作品でしたが、本作とは対極の作品であった様に本作を見て思えました。
あちらの主人公は④の「境界知能」を持った“社会不適合者”が主人公の物語であり、どちらにしろ見ないフリをするだけでない、社会に適合できない人間に対する認識を一般人ももっと持つべきなんだと、両作を見ながら思いましたね。

シューテツ