「絶望に効く薬は?」エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス REXさんの映画レビュー(感想・評価)
絶望に効く薬は?
コメディ、下ネタ、名作のオマージュ、すがすがしいほどカオスだけど、メッセージは意外とシンプルだと感じた。
絶望に効く薬(っていう漫画あったよね)は、優しさをもって相手を受け入れること…。
「ずっと君を見ていた」「世界の最後にこの世界の君に出会えてよかった」、とさらりと告げるアルファ世界のウェイモンドの台詞がじわじわ胸を締め付けます。
アルファ世界のジョイは、無理矢理バースジャンプを体験させて虚無を味合わせた母親を憎んでもいるし、また、他の世界の母親が救ってくれるのではと期待もしている。何をどう行動しても人生に意味はないという虚無感からベーグル(ブラックホール)へ母親を道連れにしようとする。結局、愛憎の混じった究極の反抗期。
「人生の意味」については、意味を考えること自体が無意味だと私は思う。人は「意味という概念を持たない」他の動物と同じく、「どうにかして生きる」目的で生きているだけだと思う。人生は「目的」を見つけ、それをこなしていく連続した営みでしかない。
永遠の時間と命を与えられたらきっと人間は考える肉体と化し、しまいにはそれにも飽きて無となるんじゃなだろうか。あの考える岩というのはすごく抽象的だけども、けっこう平凡でもある。
宇宙に比べたら税金なんてたかが数字で、人間は他人(先人)の決めたルールに雁字搦めになってくだらない時間を過ごしているかもしれないけど、結局生きている以上、対処していくしかない。
そしてどの世界にいても、気持ちを向けてくれた相手に心を開かなければ閉じているのと同じ…。人間は岩と違い、一人では幸せを感じられない生き物。ジョイは本当は幸せに満たされたいからこそ、家族の存在に苦しんでいたんでしょうね。
レミーのおいしいレストランから、2001年宇宙の旅まで、似ているけどちょっと違うパロディ世界や、お尻の穴に優秀賞のトロフィーを突っ込ませるなど(そんなものくそくらえって?)、下ネタもぶっこんで大いに笑わせるけど、移民問題やLGBTQも絡めて、みんな短い人生なんだから認め合って楽しく生きようよ、という暖かな愛に満たされた映画でした。
それにしてもマルチバースはマーベルしかり最近のSFで流行っているけど、このエブエブで一つの集大成なのではと思うね。肉体が行き交うのではなく、精神が行き交うという新しい描き方。
肩車アクションはRRRを彷彿とさせたけど、制作時期的にかぶらないからまさか違うよね。子供の当時インディやグーニーズに夢中になった世代(グーニーズ2の企画は頓挫したらしい)、ヒサビサのキー・ホイ・クァンには感無量でした。