内なる檻のレビュー・感想・評価
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鉄格子の内も外も、「この世」という同じ監獄
宗教的寓意に満ちた、深みのある素晴らしい作品だった。
閉鎖直前の刑務所で、食事をどうするかという問題を軸に、囚人と刑務官の関係性を描き、そこから「内なる檻」の監獄としてのこの世を見出している。
「監獄は辛いよな」
「こちらは外だ」
「そうか。知らなかった」
という、囚人ラジョーイアと刑務官ガルジューロの、鉄格子を挟んだやりとり。
或いは、
「お前たち(囚人)に誰と食事をするかを決める権利はない」
というガルジューロの言葉などは、刑務所を通して、神からもたらされた運命の下に生きる人間という存在全体に向けられている。
クライマックスは、停電した嵐の夜に僅かな明かりの中全員で囲む食事の場面となる。
勿論最後の晩餐のスタイルで、何故か刑務所にあるワインや天使のストーリーなど、美しい画面だった。
電源が復旧して再び明かりがつき、囚人が各自の房へ戻った後に名前で点呼される頃には、鑑賞者である自分も、それぞれを個性ある一人の人間として認識するようになっていた。
老人を殴って瀕死に追い込む、という凶悪犯罪を犯して収監されたファンタッチーニが、刑務所では献身的に高齢の囚人の世話をしている場面も印象的だった。
優しい人ほどこの世で生きづらく、行き場をなくして犯罪に走ってしまう、という問題は、万国共通なのか。
願わくば、ファンタッチーニにスポットライトを当てた続編を希望したい。
それにしても素晴らしかった。
味わい深い
刑務官と囚人の友情、というのは違うけれど「どのような状況でも、人は人に何かしてあげることが出来る」というのが主なテーマだと思った。普段観たいタイプの映画だが、主演二人の演技が素晴らしく味わい深かった。
「口笛吹けば玉ねぎ切っても涙出ない」(ファンタッチーニ)💧
最後まで緊張感が続き息が詰まるようだった。それだけ刑務官ガエターノ役・セルヴィッロと受刑者ラジョイア役・オルランドの間の会話と表情が観客の心と眼を縛っていた。音楽とサウンド・デザインも良かった。パイプ・オルガンの箇所では涙がでた。手を打つ箇所や最後の歌はサルデーニャの音楽のように思った。歌詞も。女声ソロ、美しかった。
暗闇の中、少しの明かりのもとでの一緒の夕食。机をくっつけ、ラジョイアによる美味しい料理を楽しみながら一番若いファンタッチーニを励ます乾杯、それぞれが懐かしいような、みんなを笑わせる話をする。灯りがついた途端に暗闇の中の夢のような晩餐は終わり監獄空間が戻る。でも心の中は少し暖かくなった。
ラジョイアとガエターノが二人だけでいるシーンの緊張は最初から最後までずっと続いた。すごいものだと思った。
刑務所の食事にもパスタ、プリモ、サラダが必要なんて!荒れてしまった畑から食べられる豆や野菜を男二人が収穫するなんて!ケータリングの食事はまずくて食べられないとハンストするなんて!受刑者が赤ワインを隠し持ってるなんて!キッチンの包丁専用のキャビネット内部があんなに凄いなんて!と驚きつつ笑える箇所が沢山あった。笑う一方で緊張が途絶えない映画。そして影と光が絵画のように美しかった。人間の暖かさ、聖性、弱い部分、仕事と割り切る冷たさと強さ、若い人を大事にしたい思い、今までどんな人生を・・・いろんなことが示されていた。観客が味わう緊張感の凄まじさの点でなかなかない類の映画だと思う。この映画に出会えて幸せ。良かった、本当に。
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