「誰が言ったか「おじさんの考えた夢小説」」映画刀剣乱舞 黎明 腹痛さんの映画レビュー(感想・評価)
誰が言ったか「おじさんの考えた夢小説」
これは酷いの一言に尽きます。
尺不足なのに長く感じるしんどい映画です。
ですが、ただ頭ごなしに減点部分だけ挙げるとそれはただの誹謗中傷なので、良かった点も書きます。
オフィシャルファンブックで脚本を担当された方も苦戦して作られたとおっしゃってます。プロッターの鋼屋ジン氏はアニメ活撃刀剣乱舞7話のシナリオに携わった方です。
まず「黎明」の大きな特徴は、主人公が刀剣男士ではなく現代の女子高生であることです。厳密に言うと三日月宗近とヒロインの琴音ちゃんのダブル主人公ですが、宣伝側はそれを当日まで名言していなかったことで物議をかもしました。原作ゲームには仮の主と呼ばれるキャラクターは存在しません。公式紹介のしかたもてっきりちょっと出る脇役かと思ってしまうような情報量です。
作り手の「見せたいもの」と、ファンの「見たいもの」と、「出来上がったもの」が上手くかみ合わなかった結果、賛否が大きく分かれたように思えます。
客層であるゲーム-ユーザーは、ゲームに出てくる刀剣男士たちの掛け合いや歴史上の人物と話がどう絡むのかを楽しみに派生作品を観に行きます。しかし実際は、キービジュアルにいる刀剣男士たちを上回って秋田汐梨さん演じる女子高生琴音が活躍し、これもまた敵側の酒呑童子が時間遡行軍の見せ場を奪って肩透かしを食らいます。
情報を明かされなかった観客は、女子高生と鬼に取り込まれた可哀そうな少年の物語を観たかったでしょうか?
それが見る者を引き込むストーリーであれば問題なかったでしょう。そうだったかと言えば正直微妙です。
いい話でまとめようとするために紋切り型の勧善懲悪に終わり、それがかえって後味を悪くさせています。
そもそも刀剣男士は正義のために戦うヒーローとは異なるため、鋼屋氏の得意とするであろう仮面ライダーの作風に落とし込もうとすると不自然な仕上がりになったのではと思います。
話としてつまらなくなってしまった要因のもう一つは、歴史要素が生きていなかったところです。
平安時代と西暦2012年の2つの時代の結び付けがこじつけで、頼光四天王や安倍晴明の存在が生きてきません。酒呑童子は偽政者藤原道長達から理不尽な迫害をうけた民が鬼と化した姿。という設定ですが、時を超えて依り代に選んだ肉体が、父子家庭で虐待を受けた少年というのも不幸の規模と種類が違いすぎます。
それに少年の過去だけが生々しく、現実的な不幸を物語のアクセサリーにしている部分も素人のライトノベルめいて鼻につきました。はっきり言って工夫がない。刀剣乱舞知らない人にも見せたいならそこで試行錯誤しなくてどうするのか。
なおかつ酒呑童子が洗脳した山姥切国広とのかかわりも、逸話と歴史と前持ち主との関連性が皆無。単に山姥切国広を準主役ポジに置いて主役と準主役の戦いを見せようとしただけとわかります。三日月VS山姥切は他作品ですでに飽きるほどやってるんだよ……。酒呑童子を題材にしてるんだったらもっと鬼にまつわる逸話を持った刀剣たくさんがいただろうよ。なんのための髭切だったんだよ。
くどくどとすみませんが、それぐらいもやもやしています。
映画のつまらなさ加減は、pixivの二次創作で拾ってきたようなチープなネタを切り貼りし「こういう萌えシチュ見たかったんでしょ?」とお出ししている描き方にも出ています。アニメの刀剣乱舞花丸ならそれもアリですが。
2012年の東京でもマイペースに行動する三日月、ギャルに翻弄されるへし切長谷部などなど。実写でやられるとキツいシーンの数々で見ているこっちが恥ずかしかったです。なんだろう、映画じゃなくて「ちゃお」とか「なかよし」とか少女漫画でも読者年齢層の若い媒体でやればよかったんじゃない?
しかしなぜか唐突なホラー描写や人体切断の残酷表現があるので少女漫画にすらできない。
クライマックスの胸熱展開(にしたかったかもしれない)である援軍に集結するサプライズ刀剣男士も、春のライダー映画と勘違いしたような演出で興ざめしました。
名シーンになるはずだった「長谷部の仮の主が実は黒田家の血筋」もヒントの出し方がわざとらしいので心に響きませんでした。演出家や絵コンテ描いた人は何してたの。
いい所も挙げていくと言いましたね。 長谷部のウィッグと山姥切長義役の梅津さんの演技が良かったです。
他は、役者さんは素晴らしいのに演出と脚本で足を引っ張っているように見えました。
いろんな方が言っていますが、「刀剣乱舞-黎明-」は食材は良いのに調理が下手な料理みたいな映画です。
食材はもちろん刀ステで実績を積んだ演者さんのことを指します。鈴木拡樹の無駄遣い。
Twitterでは擁護意見の感想も多いですが、同調圧のかかるTwitterでさえも賛否が分かれているってことはそこから出たら否の方が多いということです。
よく擁護意見の中に期待値高すぎたのでは?とか、前作の脚本とは別物というフォローも散見しますがそれ以前の問題です。邦画界に話づくりやシナリオワークの平均点が数値化されたとしたら刀剣乱舞黎明は赤点です。100点取れなんて言ってません。平均点の50点以上を願うのが高望みでしょうか。
前作とか作風とかそんなの関係なくつまらない。2時間近い上映時間のうち少なくとも1時間は地獄。
※
少し「活撃刀剣乱舞」のTVアニメの方の話をしますが、黎明のプロッターが7話脚本を務めたのは前述のとおり。そういえばこの話だけクセがあったなと思い出しました。
話中に登場する大典太光世の性格がゲームと違っていたほか、敵として現れる「辻斬りと化した足利義輝」のビジュアルがどうも仮面ライダーの敵の怪人めいたデザインでした。バトルシーンは迫力あって格好良かったのですが。
そのクセみたいなところが黎明で悪目立ちしたのでしょうか。
話を映画の感想に戻します。
あくまで悪口ではなく純粋な疑問です。ハリウッドスケールのVFX技術を売り文句にしているのなら、なぜ原作ゲーム内に出てくる要素にそれを生かさなかったのでしょうか?
そこを強調すると原作厨になってしまいますが、時空移転装置で時代を移動するシーンだとか刀剣男士の二刀開眼だとか、ビジュアルエフェクト技術を生かせそうな箇所がいくつかあったと思います。
耶雲監督は自信に満ちた告知ツイートをされていましたが、正直もう少し謙虚にしていた方が良いのでは?
自分はこれまでのメディアミックスはだいたい好きだったんですが、初めて二度と見たくない作品ができました。黎明見てから悪夢にうなされて胃腸が痛いです。