劇場公開日 2023年3月24日

「介護への誤解を生まないことを願う..」ロストケア NORIさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0介護への誤解を生まないことを願う..

2025年3月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

演技は素晴らしく、特に検事と犯人が、命の価値について哲学的対話を交わすシーンは見所だった。

以下、介護従事者(ケアマネジャー)としての視点から…
訪問介護の仕事の描写にリアリティが欠けていると感じた。人材不足が深刻な介護現場では、施設でも居宅でも一対一の対応が求められるのが現実であり、1人の利用者のために3人のヘルパーが訪問することはあり得ない。また、密室で介護者と利用者が二人きりになる状況が多い事こそが、介護従事者による不正の要因になり得るにもかかわらず、その点が見過ごされていると感じた。
犯人とその父親に対する支援についても、日本の社会保障制度を考えれば、解決が「超困難」とまでは言えない。父親自身が「息子に迷惑をかけたくない」と明確に意思表示している以上、日本の社会保障制度を活用すれば、月7万円の年金内で利用できる介護施設は存在する。もし現実的な選択肢を知っていれば、父親も息子を犯罪者にするより、自ら施設に入る決断をしていただろう。
むしろ、本当に支援が困難なのは、本人が自らの課題を認識しておらず、施設の利用やサービスの介入を拒否するケースだ。このような場合、家族も支援を諦めて離れてしまい、最終的に身寄りのない状況に陥ることも少なくない。
家族介護が過酷なものであることは紛れもない事実である。一方で、映画では描かれない共助や公助の手が、世の中に溢れている。
この作品が介護に対する過度なネガティブキャンペーンとならず、現実の介護の課題を冷静に考えるきっかけとなることを願う。

NORI