劇場公開日 2023年3月24日

「長寿を喜べない時代になって」ロストケア chikuhouさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0長寿を喜べない時代になって

2023年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

健康寿命という言葉がある 医療や介護サービスの世話にならない年齢のことを言うようだが、骨折や脳卒中などの入院を契機に要医療あるいは要介護状態となって、逝去するまでの間が、医療・介護サービスの進歩・普及により数年、人によってはその間は10年以上となり、この数年から10年以上が「生きている」というより、見方によっては「生かされている」という現実がある  「ピンピンコロリ」、死ぬ直前までピンピンしていてコロリと死
ぬことが、高齢者自身の願いだという人もいる一方で、子どもの側からすれば親の長寿を願いたいという気持ちがある
しかしその多くは医療や介護サービスといった「社会の支援」があることが前提であり、子ども自身の仕事やその家族生活を犠牲にしなければならない「家族介護」のみで先の見えない数年から10年以上を費やすことは困難なことである  社会の支援なしでは、介護者である家族が、「親孝行の美談」から一転、虐待・放置といった「加害者」にいつ変わるかもしれない、という危うさの中で家族介護が行われている  骨折や脳卒中で救急入院して一命をとりとめれば「退院許可」という「命令」が主治医から告げられる  月20万支払えれば、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅、療養型病院という「選択肢のカード」があるけれど、支払えなければ「自宅」もしくは「家族」という選択肢しかない  親が基礎年金だけなら、支援する子どもが一人っ子なら、「親ガチャ」じゃないけれど、親の余命の間子どもが介護づけの生活となることが確定するのかもしれない
「失われた20年」世代に非正規雇用の方が多く、また8050問題といわれる80代の親の年金に寄生する未婚の50代、こういった人々が親の介護にこれから直面してくる
医療も介護も「2割負担」「3割負担」と自己負担が引き上げられれば、医療・介護サービスを購入できる「安全地帯」で暮らす人以外はみんな「穴に落ちる将来」に直面する
きれいごとではない「自助・共助」の呪縛が始まっている
本作の検事も容疑者も、立っている場所の違いはあっても、常に親の介護についての葛藤の中にあり、観る側も他人事ではないことを知っているからこそ苦しくなっていく(3月30日 イオンシネマりんくう泉南 にて鑑賞)

chikuhou