「正直このように良くできた映画になるとは思わなかった。殊に柄本明の父親役は原作超え。(帰りに母親に美味しいものを買って帰りたくなった。我ながら甘い。)」ロストケア もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
正直このように良くできた映画になるとは思わなかった。殊に柄本明の父親役は原作超え。(帰りに母親に美味しいものを買って帰りたくなった。我ながら甘い。)
(原作既読)
①着地点の難しい話だから(原作もその点では成功していない)、どう締めるのかと思っていたら、冒頭のシーンの伏線回収をすることで検事をなぜ原作の男性から女性に変えた理由を明らかにするという捻り技で幕を下ろした。
②他人事ではないが、身につまされる程ではない塩梅。
胸にズンと来る程の社会派ではなくエンタメとのギリギリの境くらいに位置しているかな。
そういう時代なのか、着地点が難しいせいなのか分からないけれど。
③映画化すると聞いた時点で原作の持つミステリーとしての面(叙述トリック)は無くなるだろうな、と思っていたが、最初の四分の一くらいの間で上手くミステリーの味わいを残した脚色になっていて、ちょっと感心した。
特に犯人を炙り出すくだりは原作に負けず劣らずスリリング。
④冒頭の刑務所に入りたいがために軽犯罪を繰り返す老婆役に何と綾戸智恵。原作ではもっと身につまされる感じだったが、綾戸智恵の怪演で此処は笑ってしまった(私も年を取ったら刑務所暮らしも良いかな、と思ったことがあるクチなので本当は笑えない話だけれども😅)。
⑤長澤まさみは、役のせいもあるだろうけれど『涙そうそう』の頃からすると、だいぶん年を老けたなあという印象。
だが表情で演技できる良い女優になってきた。特に中盤、雨の日に椎名との二人芝居の時に大変良い表情を見せる。
⑥柄本明はどの出演作でも上手いが(最近では『ある男』でも短い出演シーンながら強烈な印象を残す)、本作でも、半身不随になり認知症になり挙げ句寝たきりになって、”死んでくれたらどんなに楽か”と思いながらも手に掛けられなかった(普通はこちらが当たり前)息子に、“自分が自分でなくなる前に殺してくれ”と頼み、とうとう息子が一線を越えてしまうのも納得の父親の姿を「これこそ演技だ」と云える芝居で見事に造形している。
⑦その息子役の松山ケンイチは一線を越えるシーンを粘り強く熱演して感心した。但し、そのあと赤い折鶴の裏に書かれていた父親の遺言(?)を読んで泣き崩れるところはありきたりの演出でもう一つ胸に迫らず。
⑦刑務所で検事と死刑囚が面会するラストシーンは原作にはないが、向かい合う二人をまるで鏡で自分を見ているような演出で描く(そういえば、あちこちに鏡や窓に映るreflectionが多い映画でしたね)。
勿論、二人は社会的には相反する立場だし、人間として似ているわけでもないが、片方は実際にその手で父親を殺し(物的に殺し、しかし心の中からは消していない⇒後悔していない)、もう一方は父親を見殺しにしたことを後悔している(物的に殺したわけではないが、自分の人生からその存在を亡いものと思っていた)という法や倫理を超えたところで共有する物がある人間として対峙させている。
何かを解決しているわけではないが、映画らしい終わり方だったと思う。
⑧