「「見たくないもの」を突き付けられて、深く考えさせられる」ロストケア tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
「見たくないもの」を突き付けられて、深く考えさせられる
認知症の老人と、その介護で苦しむ家族を救うための殺人を、一方的に断罪するような映画ではないし、ましてや、それを全面的に肯定するような映画でもない。
裁く側と裁かれる側の主張は対等に描かれているし、被害者の家族にしても、「救われた」と言う者もいれば、「じいちゃんを返して」と泣き叫ぶ者もいて、一体何が正しいのかと深く考えさせられる。
中でも、長澤まさみ演じる検事と、松山ケンイチ演じる介護士が、お互いの正義を激突させる取り調べ室のシーンは、2人の演技のぶつかり合いと相まって、この映画の最大の見どころと言っていいだろう。
確かに殺人は許されないことではあるが、個人的には、「安全地帯で綺麗事を言っている人間には、穴の底て這いずり回っている人間の気持ちは分からない」という介護士の主張は心に響いたし、彼の考えを100パーセント否定できる者はいないのではないかと思ってしまった。
切っても切れない親と子の関係性が「絆」にもなり「呪縛」にもなるという双方の主張も納得できるし、介護の問題を親子の問題として帰結させたラストにも、共感することができた。
「ロストケア」の是非はともかく、父親を殺めてしまったことに対する罪悪感と後悔を自覚できた時、介護士の魂は初めて救われたのではないだろうか?
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