「普遍的なテーマに連帯を持って描く、呼吸が深くなるような余韻に」ミューズは溺れない たいよーさん。さんの映画レビュー(感想・評価)
普遍的なテーマに連帯を持って描く、呼吸が深くなるような余韻に
存在の証明。誰もが一人前として生きていくことを望む一方、自分に足りないものが見えてくる。そんな部分を補うミューズが現れた時、輝き出す心の瞬間みたいなものがあるのだと思う。
『青葉家のテーブル』で好演を見せていた上原実矩さん、『ジオラマボーイパノラマガール』で仲良しなメンツの一人だった若杉凩さんが主演。そう発表されてからずっと楽しみにしていた今作。田辺弁慶映画祭でもオンライン鑑賞を我慢するほど。今回、こうして一足早く観れて本当に嬉しかった。そして、なんだか今は優しい気持ちになっている。
高校生によくある、「自分とは何か」といった疑問と不安。そこから生まれる感情のすれ違いを描く作品は確かに少なくない。しかし、今作が描いていくのは、その連帯感である。「誰かと生きる」ことへの軋轢、向き合い、正しさを次第に携えながら前に進む。実に現代的で優しく、その柔らかさも格段に出ている。大きな揺らぎを持たず、繊細な線を紡いでいく。これは監督の素晴らしいところ。ままならない感情を包括するような描き方に素晴らしさを覚える。
その中に携える、生き心地がなんとも快い。足の長い上原実矩さんのヒラヒラ揺れるスカートも、若杉凩さんの見つめる真っ直ぐな目も、一人で生きていたならば見ることもない世界が広がっているだろう。森田想さんの意地を張る感じもよく、コンパクトながらタッチの優しい映画となっている。ちなみに、川瀬陽太さんは激怒してないです。笑
弁セレのフライヤーにて、朝雄望監督は「映画に救われ生き延びてきました。」とコメントしている。そんな彼女が描いた本作で、私は先ほどより呼吸が深くなっていることを知るのだ。
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