「感受性豊かな男青山」線は、僕を描く つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
感受性豊かな男青山
仮に水墨画が出てこなかったとしてもいい内容の作品だったろうと思う。
うまく表現できないが、簡潔に言うならば「自分と向き合う」ことについてのドラマだ。
横浜流星演じる主人公青山と清原果耶演じる千瑛は互いに、周りの大人に、そして水墨画を通して成長する。
見えていなかったものが見え始め、世界に自分を溶け込ませる。世界から疎外された自分ではなく、自分で自分を受け入れたとき、澄んだ心で見ることができるようになる。
自分の心のフィルターを通すことで自分を含んだ世界に変わるのだ。
そして彼らの心の変化は水墨画を通して物語となる。水墨画だけではない映像によって心境変化、彼らの成長が描かれているところも素晴らしい。
物語終盤、青山と千瑛が青山の家があった場所を訪れたあと、穏やかな小川の流れや飛び立つ鳥は青山の心の映像だ。
冒頭に湖山先生が描いた鳥の水墨画は木に止まる鷹だった。湖山先生が青山に執着していたことを考えると、あの鷹は青山だ。
飛んでいなかった鳥が飛んでいる。家族を押し流した濁流は穏やかなせせらぎに。青山の心がどう変わったのかをこれだけで表すのはいい。
そして、ラストの青山の水墨画は本当に素晴らしい。
青山が見る夢のシーン。過去の家の中にいる自分。窓の外を眺める自分。窓の外には椿が。
この夢こそが青山の心だ。心のフィルターを通すとは、ここを通らなければならない。
青山の水墨画に描かれたのは椿。夢の中でずっと見ていた椿。描かれた椿は光が差し込んで、ガラス窓を通して見たような椿だった。
夢の中でずっと見ていた椿をそのまま描いたのだ。
自分の心を通した線が活きた線となり、その線は、タイトルにもなっているように、翻って自分を構成する。
心に蓋をして、偽って、見ぬふりをして、これで生きているといえるだろうか。
映画は娯楽であり芸術だ。映画ファンとしては、芸術に対するエモーションは重要である。心を殺さないことの大切さを描出されたら評価せざるを得ない。
涙を流す青山くんの場面から物語が始まるが、彼の中に特別な想いがあったにしても絵を見て泣ける感受性には感心する。
あの感性で映画を観たらもっと面白いだろうなと羨ましく感じた。そりゃあ湖山先生も弟子にしようとするよね。