「原作付きの映画化としては出色の出来」線は、僕を描く Equinoxさんの映画レビュー(感想・評価)
原作付きの映画化としては出色の出来
水墨画の世界を映画化しただけあって、全体的に抑えた落ち着いたトーンの映画になっていて好感が持てました。もちろん劇中で山場となる場面や賑やかな場面というのはあるのですが、それらの場面もチャラチャラした印象を与えることなく描いていて落ち着いて楽しむことが出来ました。
主役の2人を筆頭に、江口さん等の脇役もそうですけど、役者さん達の演技のよさがそれに貢献しているのもあるし、邦画にありがちな安直な恋愛描写を入れていないのもそれに寄与している様に思います。原作では多少の恋愛描写めいたものもあるのですが、映画化に際しては多少薄味にアレンジされています。邦画って原作にないのにこれでもかと浮ついた恋愛描写とか足してしまい、蛇足が何本も生え散らかしてしまいがちですが、本作は水墨画が題材ということもあるし、主人公が深い悲しみから立ち上がる話でもあるのでこれが正解なのではないかと思います。
この様に映画化に際して原作との差異が発生するわけですが、個人的には絶妙なアレンジだったと思います。小説原作の映画化としてはかなり出色の出来なのではないでしょうか。原作との差異でいうと割と重要人物の斉藤さんが省かれてしまっているのは少し残念でしたが、枠の限られた映画の中で出していたら話がとっちらかった可能性もあるし、仕方のない改変だったと思います。
原作もそうですが、この物語には「嫌な奴」というのが出てきません。主人公に嫌がらせをしたりとか登場人物の足を引っ張ったりする様な人物は一切出てきません。それが故に勧善懲悪的カタルシスは得られませんが、安心して気持ちよく観ていられるのも事実。
そういった様々な要素がこの水墨画の世界に相応しい落ち着きを持って表現されている素晴らしい映画だと思いました。
ただ、これだけは本当に意味がわからないのですが、エンディングテーマは何故あの曲を選んだのでしょうか。全く劇中イメージにもあっておらず、余韻を台無しにしてしまうという最悪のエンディングテーマだったと思います。せめて挿入歌の「Lost」をエンディングに持ってきた方がまだよかったのではないでしょうか。yamaさんの歌そのものが悪いわけではありませんが、とにかくミスマッチでそれだけが残念でした。