「滲む」線は、僕を描く U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
滲む
不思議な感覚だ。
癒しを感じてる。
形など無くていいんだ、囚われる事はないんだよと、優しく柔らかく語りかけられてるような感覚だ。
なにか…肩の力がスーって抜けてる。
ファーストカットは横浜氏のUPからだ。
まるで物語の羅針盤のようで、進んでいく道が示される。彼は彼の非日常に出くわしたのだ。
見た事もないモノに遭遇し感情が動く。
タイトルコールまでの導入は大好きだ。
緩やかに、されど鮮烈に作品に誘われる。
前半は逆光とハレーションが印象的だった。
主観の表現の一つなのだろうけど、的確だった。眩しく写っていたのだろう。なんかこおいう感覚ってあったなぁと思う。いつ頃から忘れてしまったのだろうか?
成長と言えばそれまでなんだけど、昔、世界は未知なるモノで溢れてて、掻き立てられる好奇心は止めどなく、それらは常に目映く光ってたように思う。
大人になるにつれ、物事を知り限界を感じ、手の届かぬモノを手が届かないと断定し、いつしか億劫にもなっていったのだろうなぁ…。
突き動かされる衝動に身を任せていた頃が懐かしく、作中の人物達がとても眩しい。
役者陣は皆様素敵だった。
題材とかテーマに由来するのかも知れないが、素体とか自然体なんて印象を受ける。
三浦さんが抜群で…水墨画の本質さえ纏っているような雰囲気に魅せられる。
芸術家らしいエゴイストさにも説得力がある。
差し障りなければ円熟した色気と絶賛したい。
清原さんなどはノーメイクにも見える。そんなはずはないのだけれど「素材」に焦点を当てた結果なのかと、細やかな演出の一端を勝手に想像したりしてた。横浜氏も見事で…脱力と言うのだろうか?アレが彼の自然体だとは思えないのだけれど、自然体ですと言われても納得してしまうくらい違和感がなく仕上がってた。
印象に残るのは、病院のロビーで彼が心情を吐露するシーンだ。このシーンの主役は間違いなく彼なのだけど、彼を写す事をしない。後ろ姿だったりボケてたり。
まるで、監督が「そんな顔見せたくも、見られたくもないよね」と優しく慰めてたように感じてた。
人が人に接する時の距離感というのだろうか?優しさが含まれる視点を体験させてもらったような気になってた。
とかく現代は主張が激しい。
こうあるべきとか、コレが正解とか、ルールとか…四角四面で形に嵌められたり、形を要求されたり。
白黒つけりゃ安心なのは分かる。誰かの成功例に追随したくなる狡猾さも。
だが、少なくとも、雁字搦めにする必要はないように思う。余白を持たないとやり切れない事ばかりのように思う。水墨画のように滲む事を受け入れればいいんじゃないかと思う。
後半、摺った墨が全く水と乖離して、墨の輪郭を明確に写す。アレが個人の意思だとして、それを用いて描いた水墨画は漆黒ではなく、溶け合い柔らかな濃淡を滲ませて完成する。
人も意思も滲んで溶け合って形成されていけばいいのだと、白は白、黒は黒でなければいけない時もあるけれど、そうでないものでも、ちゃんと行き着く場所はあるのだと、そう言ってもらえたような気がした。
そして、素体だからこその良さはあると。
他人の為に着飾る事はなく、他人の為に化粧をする事もなくていいんだよ、と。
独善的で排他的な「我が道を行く」ではなくて、共存と学びを携えた「我が道を行く」ってのもあるんじゃないかと。
なんか俺は今とても和やかだ。