劇場公開日 2022年10月21日

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「映画館の大きなスクリーンで見てよかった」線は、僕を描く ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画館の大きなスクリーンで見てよかった

2022年10月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 登場人物たちの奥行き・輪郭が描きたりていない印象をうけました。その描きたりなさには意図があって、省けるだけ省いて本質のみを残す水墨画の表現方法をシナリオにも重ねた、というなら納得ですがそうではなさそうで。個人情報の壁がスクリーンのうちにまであるのかと、もどかしく感じるほど。
 加えて『途中から観てるのでは?』と疑うぐらい、唐突な展開に戸惑いをおぼえました。時間軸をダイナミックに組み替えるストーリーは今どきだから『その手ですか』と落ち着かないまま待ちましたが、後回しにされた登場人物たちの輪郭は、最後まで奥行きがでてこないままでした。揮毫会で描かれていく水墨画のように、大胆に下ろされた太い線が、最終的にどういう絵のどういう部分に収まるのか、そういう構成の妙味を静観するおもしろさをシナリオにも重ねた、というなら納得ですがそうではなさそうで。
 主人公が白紙だという設定は、領域を超え躍動し、物語をも真っ白にした、ということでしょうか。それなら納得です。

 で、物語としては弱いのですが、それでも高く評価したのは、ビジュアル100%の映画だとわりきってみれば、傑作だと思うからです。映画館の大きなスクリーンで見てよかった。真っ白なスクリーンに水墨画の筆跡が躍動するシーンはそれだけで感動しました。
 テクニックをもっと紹介してほしかったという残念さはありますが、それは書籍での宿題にまわせること。 すばらしい線を伝え、線を引く魅力を伝え、線がすばらしくなる心構えを伝えることに、全力を注いだ映画なんだなと受けとめれば、ほかのことはさておき、見てよかった作品でした。

 競技かるたもそうですが、本作のような陽の当たっていない日本の文化を後ろ押しするまじめな邦画こそ、いまの時代に必要なのではと思いました。疫病と戦争を乗り越えんと直接的な経済政策が連日審議され報道されていますが、人々の関心事の幅を広げ奥行きを深めてくれるきっかけとなる機会の提供、間接的ではありますがこれも経済の活性化に少なからず貢献しそうです。

ピラルク