「黒と白の濃淡で描かれる世界を楽しんだ」線は、僕を描く kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
黒と白の濃淡で描かれる世界を楽しんだ
原作は未読。
水墨画を題材にしてるという時点で少し地味になってしまうのは仕方ない。白い紙の上に筆か滑って流れていく音が聞こえるだけの場面が多いし、話の展開も派手なものはない。しかも墨だから色彩も黒と白が多くなる。でも、墨と筆で描かれる絵が、なんでこんなに繊細で鮮やかで迫力があって活き活きとしているんだろうと思ってしまう。水墨画を見たことはあったはずなのに初めて見たかのような感想を抱く。黒の濃淡で描かれる水墨画の世界に、主人公の霜介と同じようにただただ魅了されてしまった。
しかも話としてもちゃんとしている。霜介が傷ついた心を癒やし新たな一歩を踏み出す物語だったし、千瑛も自分を再発見する姿に胸を打たれた。その2人のやりとりも、静かなのに内なる感情の激しさみたいなものを感じた。後半、川原で2人が言葉を交わすシーンは、恋愛的な要素がないように見えて、とても深いところでお互いの気持ちを確かめ合う、愛に溢れたシーンだった。
ただ、一つだけ残念だったのが、家族とのエピソード。妹のことが強調されすぎて、両親のことが若干ぼやけてしまっていた気がする。いや、まぁわかると言えばわかるんだけど、これって結局こういうことなの?と想像するしかない。あれで察してくださいというのは若干不親切な気がしてしまう。
でも、いい映画であったことは間違いない。出演者たちは長い年月をかけて水墨画のレッスンを受けて撮影に臨んだという話も聞いた。実際に描いているシーンがやけにリアルだと感じたのは本当に習い技術を磨いたからなんだな。その役者魂にも感動する映画だ。
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