「敵は未来の自分、過去の自分」X エックス バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
敵は未来の自分、過去の自分
最近ホラーオタクの監督が目立っているが、そもそもホラーなんてものを撮る監督は何かしらオタクや変態だし、逆にそうじゃなければ撮れないジャンルでもあるが、今作の監督のタイ・ウェストもかなりのオタクで変態だ。
70年代ホラーのオマージュだったり、ニューシネマへのリスペクト、ヒッピー文化の危うさなど、当時のアメリカが抱えていた、もやもや感や価値観や概念のグラデーション的変化を敏感に取り入れた新感覚ホラーというべきだろうか。
ストレートで王道で、エロがあったり、ワニが出てきたり、やっぱりおバカな映画ではあるものの、どこか悲しさが妙な空気感として充満している。
それは誰もが歳をとると感じるであろう、戻れない若さへの憧れ、嫉妬、喪失感といったもので、殺人鬼夫婦の視点がとにかく悲しい。
目に映るヒッピーたちが、時代や環境は違っても、自分たちの若い頃を見ているようで、元気でバカやってる姿を見れば見るほど辛さがひしひしと伝わってくる。
つまり見ている相手は、まるで「かつての自分」、被害者たちは「未来の自分」に襲われるというような特殊な対立構造を作り上げているのだ。
主演のミア・ゴスは、主人公と殺人鬼側の一人二役を演じているのが、何よりそういったメッセージ性が含まれている証拠である。
今作、3部作構成となっており、次回は殺人鬼の60年前の物語になるという。2作目を観た後で、もう一度今作を観直してみると、また深い物語になりそうだし、そもそも何度も見せることを前提とした、巧妙な構成にしてあるようにも感じられる。