「恋に狂った恐怖の老婆」X エックス Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
恋に狂った恐怖の老婆
前情報で、今回のシネマは史上最高齢の殺し屋夫婦が若者たちを殺りくするストーリーであることを知りました。しかしポスターには何ともセクシーな娘がいて、「死ぬほど快感」とキャッチコピーが付いている。この奇妙なズレ感。
◉「農家の娘たち」
実用的?ポルノを目指す俳優ジャクソンと、芸術性高いポルノを標榜するRJが議論しながら撮影していくが、エロス満開の画面と土臭いタイトルの対比が抜群。女優も制作者も本気で、このポルノでスターダムを狙っている時点で、コメディーの香りさえ立ちましたけれど、油断はできない。血しぶきは突然、飛び散るものだから。
◉不安を募らせるもの
世の若者たちの「不道徳」な振舞いを、テレビの画面越しに非難している牧師と信者たち。こんなシーンが繰り返されることで、大きな恐怖を呼び起こされた。いつ画面の中の牧師が、これから起こる事件を大声でわめき立てないとも限らない。
そう言えば、話の序盤で画面を横切った雄鶏に牛たち。あのような動物の不協和音的な大写しも、小道具としてとっても怖い。
◉悪魔の巣窟に足を踏み入れた
ところが、第一の殺人で老婆がいきなりRJを刺殺しようとはせず、服を脱いでしなだれかかった瞬間、スラッシャーとは全く別の震撼を味わうことになる。
いや、恋に歳は関係ないのも事実だけれど、やはりおぞましい。そして抱いてもらえないと分かると刺しまくる、その横道振り。続いてウェインも一点突破で目を貫かれるが、心が更に凍ったのは、老婆が男への欲情に留まらず、マキシーンも抱こうとしたこと。冒頭でマキシーンを見つめていた老婆のあの視線は、恋心が芽生えたのだった。
若さへの憧憬に突き動かされて、自己陶酔的に半眼になって踊る老ダンサーの、拭いがたい、でも消し去ってしまいたい存在感。
そして、老人は己れが妻の情欲を満たせない代償として、若いロレインを地下室に閉じ込めて、バイセクシャルの妻の獲物にしようとした。これが初めての殺りくではなく、まるで巣を張り巡らした蜘蛛のような悪魔の雄雌。
◉しかし、Xは老婆を上回る
ほぼ老婆の一人勝ち状態で話は進みますが、ウェインがこの物語の前提として「マキシーン、君は持ってる」と告げていた通り、彼女は神にも悪魔にも選ばれし者だった。
鰐の一咬みをミリ単位で交わし、「二人だけの秘密」などと殺人鬼婆さんをたらし込んだ。そしてイエスキリストの力を借りて、殺人鬼を十字に斬り伏せ……はしなかったが、頭をしっかり潰した。マキシーンは牧師の娘だったし、やはり「持って」いた。
5人も殺した殺人鬼夫婦が、心臓発作とギックリ腰で命を落とすラストは、ぶっ飛びホラーの締め括りとして、拍手したかったです。妻にせがまれて営んだ老人に、余力はなかったと言うことですね。
血しぶきの怖さはさほどじゃなかった代わりに、「老い」への無力感と切なさを味わうことになりました。
エンドロールでは気がつかず、後情報で知りましたが、老婆とマキシーンがダ、ダブルキャストだぁ!
今度こそX斬りが炸裂するであろう、次回作が待てない。