劇場公開日 2022年7月15日

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ボイリング・ポイント 沸騰 : 特集

2022年7月11日更新

人気レストランの舞台裏、
全編90分正真正銘のワンショット映画にハラハラが止まらない!

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話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。驚くべき撮影術と練られた脚本で高い評価を得たイギリス映画「ボイリング・ポイント 沸騰」が、7月8日から3日間限定で劇場公開前プレミア上映されます。

ロンドンの高級レストランを舞台に、オーナーシェフのスリリングなある一夜を、全編90分ワンショットで捉えたドラマです。主人公のシェフをはじめ、スタッフ、客、それぞれの人間模様をリアルな設定とセリフで描き出した本作について、映画.com編集部が見どころを語り合いました。

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ボイリング・ポイント 沸騰 (2021年製作/95分/PG12/イギリス フィリップ・バランティーニ監督)

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<あらすじ>

一年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日。ロンドンにある人気高級レストランのオーナーシェフのアンディは、妻子との別居や衛生管理検査で評価を下げられるなど、さまざまなトラブルに見舞われて疲れ切っていた。そんな中、アンディは気を取り直して店をオープンさせるが、あまりの予約の多さにスタッフたちは一触即発状態となっていた。そんな中、アンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れて突然来店し、脅迫まがいの取引を持ちかけてくるが……。


座談会参加メンバー

駒井尚文(映画.com編集長)、和田隆、尾崎秋彦、松村果奈

■今まで味わったことがない緊張感と臨場感 ノー編集・ノーCGの正真正銘のワンショット映画

和田 全編90分のワンショットという本作、この緊張感、臨場感は今まで味わったことがないですね。

尾崎 近年は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」「1917」がワンショットを謳っていましたが、これらは編集を駆使したいわゆる“疑似ワンショット”でした。一方で本作「ボイリング・ポイント」は、ノー編集・ノーCGの正真正銘のワンショット映画。しかも約90分全編が。ここが本作の最大の特徴です。

駒井編集長 ワンショット、ワンカメラなので、見る方も集中して見ちゃいますよね。めちゃめちゃ緊張しながら見入ってしまいました。

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松村 リハーサルは本当に大変だったでしょうね……。物語の流れはもちろん、登場人物も動線も多くて、見ていてハラハラしっぱなしでした。

尾崎 2種類の緊張感が襲ってくるんですよね。撮影がうまくいくのかというメタな緊張感と、画面上で展開されるトラブルがどうなるのかという物語的な緊張感。ここも本作がほかとは違う質感である要因だと感じました。

駒井編集長 リハーサル中は料理どうなってるのかなあとか、お客さん役の人たちも、全員リハーサルに参加してるのかなあとか、色々考えながら見ちゃいます。

尾崎 リハーサルや本番の様子をとらえたメイキングを映像を見たのですが、“製作過程も映画本編”だと感じられます。出演者は100人以上になるそうで、1回撮影が終わると監督が全員を集めて、必要な指示を細かくしていったそうです。「ちょっと『予約が立て込んでる』のセリフが早口過ぎたな、少しスローに」などなど……大変すぎる!

和田 それはすごいですね。見ている自分もそこにいるような、のぞき見しているような感覚に陥りました。

尾崎 実在するレストランなので、壁抜いてカメラが動きやすいようにする、などが全く出来ないので、動線設計も凄まじく大変だったようです。

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駒井編集長 確かに、動線は相当熟考されてるよね。一応、場面転換は何カ所かあるんですよね。皿洗い担当がレストランの外に出て、売人と接触するシークエンスとか。「ああ、ここで店内は次のシーンの準備してるんだなあ」「トイレ休憩にもなってるなあ」って。

■しっかりと作り込まれたシナリオ 社会の縮図を見ているような人間模様に引き込まれる

松村 登場人物それぞれの設定や人間模様など、物語そのものが現代社会の縮図のようでもある脚本も見事です。個人的にはもう少しユーモアが欲しいところでしたが。

和田 俳優たちの即興演技も含まれているみたいですね。

尾崎 普通のレストランだったら1年間に起こる量のトラブルが約90分間に凝縮されて描かれるため、そりゃあもう画面上は修羅に次ぐ修羅なわけですが、そのトラブルが人間性を浮き彫りにしドラマを引き立たせる、というシナリオが非常に巧みです。イライラしてブチギレるやつもいれば、悠々自適に大遅刻をかまして笑ってるやつもいる。人間模様が面白いです。

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駒井編集長 厨房VS経営者のバトルは、社会の縮図を見るようでしたね。リーダーシップがないと、人気店のシェフは務まらないのがよく分かります。

和田 そのシェフの人間性が次第に明らかになっていく展開も見ごたえありました。いつもゴクゴク何飲んでるのかなと思っていたら……。

駒井編集長 確かに、あの白いボトルは気になった!

尾崎 主人公であるシェフのアンディが、最悪なコンディションなのが肝ですよね。和田さんと駒井さんの言うように、ずっと持っているボトルが実は……という展開は僕も引き込まれました。

和田 要所でアンディがミスったりするので、おいっ!とツッコミたくなります。

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■レストランという設定だからこそ成立した映画 監督の実体験を反映か

駒井編集長 このワンカット案件は、ほかの店でも成立するのか考えているんですが、やはりレストラン以外では難しいですね。雑貨店とかだと、イベントが少なすぎて映画にならない。 デパートとかだと、フロアの移動が発生するので、撮影は相当難しくなるでしょう。

松村 私は前知識を入れずに見たのですが、監督はなぜこのような緊張感あふれる映画作ろうと思ったのか知りたいですね。実体験などが反映されているのでしょうか? 日本での公開作はこれだけなので、これまでどんな映画作ってきた方なのか気になります。

尾崎 もともと監督はレストランで12年間働いた経験があり、2018年に本作の基となる短編を撮影しています。で、その際に撮影監督が「ワンショットでやらない?」と提案したそうです。観客に強い緊張感を与えることが目的だったとのことです。ただ、短編から90分の長編に作り変えても、ワンショットはそのまま挑戦するというのはもはや狂気的です。普通、長編にするんだったら編集入れますって。

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駒井編集長 本編で最初から最後まで働きづめなのは、カメラマン(撮影監督)ひとりだけですね。

尾崎 ステディカムで撮ってるので、メイキング見ると、撮影監督が背中と胸元にバカでかい機材かかえて、狭い通路を俳優を追って必死に動いている様子が観られます。体ごと後ろを振り返るのが一番キツいとのこと。

和田 もうちょっとコンパクトな機材で撮っているのかと思ったら、結構重そうでしたね。バッテリーや照明の問題とかいろいろ考慮してなんでしょうが。

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■上手すぎて本物のレストランスタッフにしか見えない! 個性派揃いのキャストにも注目

和田 それから、キャストも良かったですね。アンディを演じたのが「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」や「アイリッシュマン」にも出演しているスティーブン・グレアムという個性派俳優! ほかの役者も妙な生々しさがありました。

尾崎 素晴らしかったですね! ワンショットを実現させるため、俳優の演技など細部のクオリティは妥協しているだろうと予想していましたが、何もかも執念がこもってるレベルで本当に驚きました。このクオリティをワンショットでできたの、何で!?と……

駒井編集長 シェフにしてもレストランのスタッフにしても、本物のレストランの人にしか見えなかった。本当に営業してる人たちじゃないかと。

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松村 俳優陣達は、レストランで役作りのために修業をされたのでしょうかね。

尾崎 全員かどうかはわかりませんが、実際にしていた人はいるみたいです。バーテンダー役の俳優はカクテルの講座受けたり、店で働いたりして役作りしたとのことです。

松村 美食家の観客は、クリスマスの時期のディナーということで、どんなコースを出していたのか気になりそうですね。アラカルトにも対応していたようですが。デザートのレモンのタルトの出来上がりも見てみたかったです。

尾崎 見ているうちに僕もシェフたちと気持ちが同化していったので、何にも考えてなさそうな客がメニューに載ってないステーキを頼んできたときに、僕もイラッとしてしまいました(笑)。

駒井編集長 1箇所だけ、ワインの抜栓が客の前でなかったのだけ気になりました。あとはほぼ完璧にお仕事していたと思います。

尾崎 ということは、本当に細かいところまで抜かりないですね……。撮影前の事前準備はほとんど偏執的なまでになっていたんでしょうね。

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駒井編集長 全編90分なので、何パートかに分けて、きっちりリハーサルはやったんでしょうね。それにしても、全シーンをワンカットで撮りあげるのは相当にクレイジーなチャレンジであることは改めて言っておきましょう。お見事でした。

尾崎 掘れば掘るほど、完成して公開されることに愕然とするような映画でした。

和田 今までにない映画体験ができる作品ですね。

駒井編集長 2回目見る時は、あら探ししながら見たいですね。「あれ、ここ会話がかみ合ってないな」みたいな感じのあら探し。

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■ラストにも驚かされること必至! 鑑賞前の体調を万全に

松村 そして、ネタバレなしで言っても、とにかくあのラストだとは! と驚きました。びっくりしすぎて心臓に悪いかもしれませんので、体調を万全にして見てほしいですね。

駒井編集長 ラストどうなるのかなって、ずーっと考えながら見てました。あのラストは、思わず「うまい!」って思いました。それしか終わりようがないなと。

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