劇場公開日 2022年7月15日

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「クレームが少なすぎる料理店」ボイリング・ポイント 沸騰 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0クレームが少なすぎる料理店

2025年5月3日
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全編ワンショットの長回しだけが注目されている本作ですが、なぜか違和感を覚えずにはいられない映画なのです。イギリスの架空人気レストランが舞台になっているようなのですが、肝心要の料理がまったくクローズアップされていないのです。シェフ(スティーブン・グレアム)をはじめ、従業員の皆さんがすべて文句タラタラかダラケきっていて、クリスマス前の一番のかきいれ時だというのに目の前のお仕事にまったく集中していないのです。

本作を鑑賞した後、たまたま民放で放送されていた町中華の番組を拝見させていただいたのですが、お客さんが入店してきたと同時に目付きが変わるご主人の姿勢にいたく感心させられたのです。厨房の隣に構えた麺担当の奥さんとは息もピッタリ。店主が腰をかがめた瞬間に刻みネギを鍋に投げ入れるタイミングも絶妙で、実際に食べなくとも美味しいチャーハンであることが画面から伝わって来たのです。

それに比べて….シェフ自ら遅刻してきて、肉の発注やレストランの生命線ともいえる仕込みすら人任せ。どうも家庭がうまくいってないようで、営業時間中しょっちゅうかかってくる携帯電話。調理中だろうが客の前だろうがかまわず話し始め、控え室でサボってはコケイン&ウォッカという、どうしようもないダメダメシェフなのです。

シェフをサポートする料理担当の移民も、保健所にインフルエンサー、料理評論家に(客として来店した)有名シェフの顔色ばかり伺うダメシェフや、オーナーに文句タラタラなのです。白人の給仕係もサービスのことなどまるで無視、BFやお客との私語に余念がないのです。遅刻常習犯の黒人皿洗い係にいたっては、大遅刻してきた上に、ゴミ出し中にキメながら売人からヤクを調達する体たらく。ここが日本ならとっくの昔に閉店間違いなしの料理店なのです。

にも関わらず、店内を埋め尽くす客が文句一つ言わないのはあまりにも不自然すぎるのです。黒人ウェイトレスだけにいちゃもんをつけるレイシスト、突如として発作を起こす🥜アレルギーのカップル、ゲイに興味深々のフェミニストたち、シェフの元師匠である有名シェフにいたっては、シェフが独立したことをなじったすえ、レストランの70%の権力をよこせと半ば脅迫するのです。

本作が公開された2021年はイギリスがEU脱退を決めた2020年の翌年にあたり、まさにEUから独立か帰属かで英国が真っ二つに分断されていたのです。グルメ映画とは名ばかりで、ブレグジット=シェフの独立をめぐってもめにもめている(沸騰状態の)英国のアレゴリーとして、料理人もウェイターも客もすべてバラバラで自分のことばかり、料理をもてなす&楽しむという本来の目的をすっかり忘れてしまったレストランの惨状を描いた作品だったのではないでしょうか。

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かなり悪いオヤジ
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