劇場公開日 2022年7月15日

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「発想は素晴らしいがもう一度観たいかと聞かれたら微妙」ボイリング・ポイント 沸騰 ぺぺさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0発想は素晴らしいがもう一度観たいかと聞かれたら微妙

2022年7月31日
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90分ノーカットという前代未聞の作品。
イギリスの、とある格式高いレストランの舞台裏を切り取った作品。

まずそれを映画にしようとした着眼点もすごいし、90分ノーカットで撮り切るという狂気とも言える偉業にも鑑賞前から圧倒された。

どんなに華やかで上品な高級レストランだろうが、実際に裏はこんなもの。お客さんが当たり前だと思っている表舞台のエレガントさは、舞台裏の彼らの汗と涙、心労で成り立っている。

料理人というものを少しでも経験してきた人達は、これはまだマシな方と笑うかもしれない。
事実、料理人は先輩の料理人から理不尽に暴力を振るわれ、些細なことで怒鳴られたりすることが多い職業だ。例え高級な日本料亭だろうが、フレンチだろうが、それは国境を超えても同じこと。
劇中では、理不尽な客から人種差別的な扱いをウェイトレスがされたり、厨房と支配人の意見が噛み合わずに罵倒しあって対立する場面は、あるにはあるかもしれない。だが、現実のシェフはもっと過酷。ただし、あまりにもリアルに描きすぎると、ただのつまらない胸糞映画になるので、監督はその料理人あるあるの、汚い部分は描かなかったのだろう。あくまでリアリティを重視した、ノーカット撮影という、役者の緊張感をストーリーに混ぜた1つの芸術作品だ。

切羽詰まった調理場が、登場人物を介してすらすら流れていくので、退屈と言う人がいるかもしれない。事実、退屈な映画と言えば退屈ではある。そのへんのよくある映画と違って、感動も、涙も、笑いも我々に与えてはくれない。与えてくれるのは、「空気」だ。ただひたすら、タイトル通りの、登場人物それぞれが抱える鬱憤が沸騰している現場の「空気」を伝える映画。大きなスクリーンで見た分、その緊迫感はダイレクトに伝わるが、それだけの映画と言ってしまえばその通り。もう一度観たいかと聞かれたら残念ながら、私は首を横に振る。それに、終わり方も、少し物足りない気がした。あの後アンディがどうなったのか、まだ営業時間も終えていないレストランがそのままブラックアウトしていくのは消化不良。

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ぺぺ