劇場公開日 2022年8月19日

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「『セイント・フランシス』以降という言葉が生まれそうなくらいの先進性」セイント・フランシス 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0『セイント・フランシス』以降という言葉が生まれそうなくらいの先進性

2022年9月30日
PCから投稿

さえない人生を送る主人公の等身大の姿を描いた映画は山ほど存在するが、それでも映画とはこういうものである、というバイアスがかかっていて、不可避的に映画的脚色がなされるもの。映るものより、むしろ映されない要素によって、これは作り事である、という安心感が生まれているものだと思う。しかし本作は、商業映画があまり注目してこなかった日常のひとコマを描くことに時間を割いていて、それがジェンダーなどの問題意識をさりげなく提起するという点で、映画表現として革新的な試みに挑み、そして成功していると思う。

それが等身大のヒューマンコメディであることであまり前景化はしないのだが、今後の映画表現において『セイント・フランシス』以降という認識が生まれるのではないかと思うくらい、大きな変革を成し遂げているのではないか。作り手にとってインスピレーションになったというグレタ・ガーウィグも素晴らしい映画作家だが、フォロワーでありながら、さらなる先の地平を切り拓いた本作には拍手せずにいられない。

村山章