「家とう牢獄で見せる家事の奥深さ」ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
家とう牢獄で見せる家事の奥深さ
カメラも主人公もほとんど主人公の自宅から出ない。郵便局などに用事がある時だけ主人公は外に出る。驚異的な規則正しさで毎日の家事のルーティーンをこなす主人公は、しかし、自宅で売春を行っている。
女性を家に閉じ込め、家事労働させる「牢獄」のようにも見える。たしかにこの主人公には自由がない。家事は終わりがないので、ひと時も休めない。毎日同じことの繰り返しの地獄のようでもある。
しかし一方で、彼女の無駄の一切ない動きには、家事という行為の奥深さや価値ある何かが宿っているようにも思う。熟練の職人の正確無比な動きに見惚れたことがある人は多いだろうが、この映画の主人公の動きにもそれがある。これほど家事という労働の価値を高く描いた作品はそうそう無いと思う。家事に価値がないことだと考える前提そのものを覆す力を持った作品ではないか。超一流の家事職人の織りなす一挙手一投足に目が離せない。私たちの日常に、これだけ豊穣なものがある。家事をバカにしてはいけない。
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