「狂人に最適の人選」さかなのこ サブレさんの映画レビュー(感想・評価)
狂人に最適の人選
さかなクン版裸の大将。ただしさかなクンをのんが演じているので、どれだけ変人奇人を描写しようと画面にはひたむきで可憐な女の子しか映らない。その点で卑怯でありつつも見事な采配というほかない。
しかし、没頭する・のめり込む人間を演じるのんが魅力的に写らなかったわけではない。むしろ狂気を演じるに素晴らしい適性があったと言うべきだろう。目の前の一点をただ見つめ、それ以外は頭に入ってこない。そんな人間が確かな説得力を持ってそこにあった。その点でも見事な采配と称賛したくなる。
ただ一方でストーリーの方は起伏がなく、「幸運」の一言を想起させた。昔ながらの友人がたまたまいいポジションを持ったがゆえに才能が世に出ただけなのではないか、と。いやどれだけ史実に基づいているか知らないし、映画にするために色々改変はあるのだろうけれど。
改変がないなら、やはり幸運といいたくなるし、改変があるなら、もうちょっと何かあってもよいのではないか…うーん…とはいえ人生なんて運次第でどうにでも転ぶことも間違いのない事実。それもリアルといえばリアルだし……。
おかしい。ほめたかったのに愚痴ばかりだ。
要所要所のコメディはとても良かったし(青鬼とかワンダーとか)、家族のために大好きである魚を手放すシーンはやるせなく、しかし感動で胸がいっぱいになった。その思いを感じながらも自分よりも魚をとってほしいと身を引く母娘。そう行動させるほどに彼女(彼)が魚好きとして理解され、応援されていた。ビターな香りを漂わせながらもほんのりとした幸せを感じた一幕。
全体としてはそんなバランスのある映画だったと思う。私にはこのバランスが心地よかった。