「枠にはまらない魂たちが響き合うユーモラスで美しい人間賛歌」さかなのこ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
枠にはまらない魂たちが響き合うユーモラスで美しい人間賛歌
魚好きが高じてユニークなキャラクターのタレントとして知られるようになり、さらに大学教授や研究者としても活動するさかなクン。子供を常識の枠にはめず、“好き”を追求できるよう見守った母の存在も偉大であったことが本作からもよくわかる。
そして、NHK朝ドラ「あまちゃん」で大ブレイクを果たすも、大手芸能事務所から独立する際に本名「能年玲奈」で芸能活動をさせないという理不尽な仕打ちを受け、一時期テレビ・映画業界から敬遠されたものの、“創作あーちすと”としての活動、主人公すずを演じたアニメ映画「この世界の片隅に」のロングランヒットなどを経て、近年ようやく邦画ではコンスタントに起用されるようになった、のん。
そんなのんに、さかなクンの半生を演じさせるという、ジェンダーを超えたキャスティングが素敵だ。大傑作「横道世之介」(2013)の沖田修一監督と脚本・前田司郎による9年ぶりのタッグも嬉しい限り。共演の柳楽優弥、夏帆、磯村勇斗、岡山天音、井川遥らも、遊び心いっぱいの映画世界でのびのび楽しんで演じている様子が伝わってくる。
枠にはまらない生き方を貫いてきた彼らの精神が響き合い、美しいハーモニーを奏でる本作は、多様な存在を祝福する人間賛歌でもある。幅広い層が楽しめる好作だが、特に“普通と違う自分”に悩んだり苦しんだりしている人に届いてほしいと心から願う。
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