さかなのこ : インタビュー
のん&さかなクンが伝えてくれた「好き」を貫くことの大切さ
さかなクンの半生を映画化!? 主演はのん!? 監督は沖田修一!? 「さかなのこ」第1報の情報解禁が行われた時、頭の中は“はてなマーク”で満たされてしまった。一体、どんな映画になるのだろう……。不安と期待が入り混じった感情を携えて、いざスクリーンへ。
鑑賞後、思わず叫びたくなったことを鮮明に憶えている。
「『さかなのこ』が大好きだ!」と。
原作は、さかなクン初の自叙伝「さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~」(講談社刊)。子どもの頃からお魚が大好きだったさかなクンが、たくさんの出会いの中でやがて“さかなクン”になるまでが描かれている。映画では“さかなクンの分身”ともいえるミー坊(のん)が、多くの出会いと優しさに導かれ、自分だけの道を突き進んでいくさまが映し出されていく。
女優、創作あーちすと、ミュージシャンと幅広い表現活動で活躍を続けるのん。お魚への大きな愛と膨大な知識、優しくユーモラスなキャラクターで人気を集めるさかなクン。一心不乱に「好き」を貫き続ける2人の出会いは、必然だったのかもしれない。
「のん=さかなクン」という驚きの発想から生まれた物語。ミー坊が歩む“すっギョい”人生は、「好きなこと」「好きなもの」への愛おしさを思い起こさせてくれるはず。そして、悩める人の背中をしっかりと押してくれる映画になっているのだ。
インタビュー現場に現れたのんとさかなクン。ひとりでも場の雰囲気が明るくなるというのに、そこにもうひとり――室内なのに、まるで眩い太陽の下にいるかのようだった。時に笑って、時には照れて、思わぬ言葉に驚いて……。常に明るさを携えて、2人は息の合った掛け合いを見せてくれた。(取材・文/編集部 岡田寛司、写真/間庭裕基)
●のん&さかなクン、出会った時の印象は? シンパシーを感じる部分も
――まずはじめに、お会いした時の印象についてお聞かせいただけますか?
のん:お会いすると、とっても幸せな気持ちになるんです。以前、ドラマで初めてお会いした時のことを思い出しました。その時は撮影も後半に差し掛かっていて、皆が少しくたびれているという状況。「もう少し頑張っていかないと!」と気合の入れ時だったんです。さかなクンが現場に来て下さっただけで、皆が「頑張らないと!」と勢いづいた感じがしました。誰もが幸せな気持ちになれる存在だなと思います。
――確かに、今回のインタビューでもさかなクンが現場に現れただけで、雰囲気がパッと明るくなったような気がしました。
のん:そうなんです! 皆、笑顔になりますよね。目の前に現れた瞬間に「“本物のさかなクン”だ!」と感じてしまうほどの嬉しさがあるんです。
さかなクン:ギョギョッ♪♪ さかなクンも「のんさまだー!」と感激でギョざいます!! のんさまは、以前から憧れの大ファンであり、透き通るような明るさ、おめめのキラキラに、とっても元気をいただけるんです。「さかなのこ」のお話をいただいて、さらにはのんさまが主演だと聞いた時は「ギョギョー!! これは本当に夢じゃないの!? (頬を叩いて)痛た(イタタ)! 夢じゃない! 嬉しい~!」と興奮してしまいました。去年一番嬉しかった出来事……というよりも、現在進行形で一番嬉しかったことでギョざいます!
――「演じる」「演じられる」という関係性ですが、シンパシーを感じた部分はございますか?
のん:私は共感する部分がたくさんありました。「好きなことに対して、真っ直ぐ突き進んでいる」という部分もそうですし、「誰かに楽しんでもらいたい」という姿勢は、自分とベクトルが似ているなと思ったんです。「明るいオーラで皆のことを元気にしたい」という部分も似ていると思いますし、私も一層そうなっていきたいと感じていました。
さかなクン:のんさまが役を演じられている時のさまざまな表情、明るさは「元気をいただける」という点で、とっても魅力的いっぱい! それと同時に、普段は穏やかでフワ~とされているところが大好きです。さかなクンも、のんさまのように穏やかで、フワ~としていたいなぁと思います。
さかなクン:「ギョエ~!!(色々な作業が)時間に追われて間に合わない……!」という時もあるのでギョざいます(笑)。そういう時はフワ~としていたいなと思います(笑)。
のん:そういえば、お魚のぬいぐるみを作っていらっしゃった時は、すごく追求されていましたよね?
さかなクン:そうなんでギョざいます! どうしても「ここはこうしなければ!」と没頭しちゃう時がギョざいまして……(笑)。出来るかぎりは徹底的にやりたいタイプなのであります。
のん:そういうところもすごく共感していました! 私もこだわり始めると止まらないタイプで、そういうところも似ているなぁと思っていました。さかなクンからタコとウマヅラハギのぬいぐるみをいただいたんです。それの仕上がりを見てみると、さかなクンのこだわりがしっかりとわかります。写真に撮ってみると、本物みたいなんです!
●“さかなクン役”は「やっぱり私が一番しっくりくるなって思ったんです」(のん)
――のんさんに「星屑の町」でインタビューさせていただいた際、「自分の出演が“威力”になる作品に参加していきたい」という言葉が印象的でした。改めて、今回のオファーについてのお気持ちを聞かせて頂けますか?
のん:最初にお話をいただいた時は「私が演じていいんだ!?」という驚きがありました。それは「のんが『さかなのこ』でさかなクンの分身でもある“ミー坊”を演じる」というニュースを見た人たちと同じくらいの衝撃だったと思います。本当に脚本が面白かったですし、ぜひ沖田監督と仕事をしたいと考えていたんです。さかなクンという“老若男女のヒーロー”のような存在を演じられる――とても幸せでした。多幸感を感じていましたね……タコだけに(笑)。
一同:爆笑
のん:「自分以外にさかなクンを演じられる人がいるのだろうか?」と考えたこともありました。性別問わず思い浮かべてみたんですが……やっぱり私が一番しっくりくるなって思ったんです。
さかなクン:(拍手をしながら)ギョッホ~♪♪ やったー!
のん:だからこそ「演じてみたい」と思いました。そして、本読みに参加した際、ホワイトボードに「男か女かは、どっちでもいい 沖田」という張り紙が貼られていたことも印象的でした。その張り紙を見た瞬間、ビビッときたんです。「どっちでもいいんだ。沖田監督はそう考えているんだ」と考えることができましたし、すごく励みになりました。
――さかなクンは、今回の「映画化」について、どのような思いを抱きましたか?
さかなクン:はい。映画「さかなのこ」を観ていると「こんなこともあったな~。懐かしいなぁ~」と感じる部分もあったのですが、やっぱりのんさまが演じたミー坊の世界観、沖田監督さま組のチームワークが素晴らしかったです。もちろん事前に脚本を読ませていただいたのですが、映画を観ていると「このあとはどうなっていくのかな?」とワクワクしたり、「こんな乱闘になっても、近くでカブトガニちゃんが歩いているぞ!」というシュールさも全部含めて、すっギョい楽しかったです! のんさまが海に飛び込むシーンもすギョいなぁ~と、わくわくしました。
のん:私、本当に飛び込んでますからね(笑)。
●物語のキーパーソン・ギョギョおじさんについて のん「本当に素敵な存在」
――劇中では、さかなクンがギョギョおじさんを演じられています。ここまで原作者が“キーパーソン”として活躍する映画も珍しいですよね。のんさんは、この仕掛けについて、どう思いましたか?
のん:すごく素敵でドラマチックだなと思いました。ミー坊にとっては、家族以外で、初めて好きなことを受け入れてくれた人ですから。「さかなのこ」にとっては、とても重要な存在です。だからこそ、さかなクンが演じているという説得力が生まれていますよね。ギョギョおじさんをさかなクンが演じると聞いた時は、めちゃくちゃテンションがあがりました! 実際に映っている姿を観ていると、不思議な気分になりました。良い意味で妙なシーンですよね(笑)。とても純粋な人にも見えますし、衣装のトレンチコートのせいもあるのか、ちょっと怪しげにも見える。さかなクンは、絶妙なラインで演じられていると思いました。
さかなクン:のんさまにそんな風に仰っていただ超!光栄でギョざいます!
のん:本当に素敵な存在だなと思ったんです。子どもにとっては、憧れの大人。ミー坊が憧れる気持ちもわかりました。その一方で、親世代が心配してしまう気持ちもわかってしまうんです。でも、映画を観た人は、誰もが「ギョギョおじさんは変な人じゃない!」と思えるはずです。それに沖田監督も“驚きの演出”もしちゃっていますよね……(笑)。これが成立するのは、さかなクンしかいないと思いました。
―ーさかなクンは、ギョギョおじさんを演じられていかがでしたか?
さかなクン:自分のようでもあり、自分ではないという不思議な感覚でギョざいました! さかなクンが小学生の頃、通学路や学校の門の前には、ギョギョおじさんのような不思議な人がいたんです。色々なお菓子を売りにきたり、手品を見せてくれたりしました。「こういう不思議なおじさんいたなぁ」と昔のことを思い浮かべていました。小さい頃のミー坊とヒヨとも会うこともできましたし、なんだか異次元にいるような気分でギョざいました。そして、のんさまが仰っていたトレンチコート! 実は初めて着させていただいたんですが、気分がギョギョギョ~ッと変わるんです。
●のんは“夢”を叶えていた! 初参加となった沖田組
――ギョギョおじさん登場シーンは“必見”とも言えるような仕上がりになっていますよね。ちなみに、のんさんにひとつお聞きしたいことがあります。「星屑の町」のインタビュー時、記事には記載しなかったのですが、「いつか沖田監督と仕事がしたい」と仰っていたんです。憶えていますか?
のん:え!? 私、そんなこと言ってたんですか?
――実は言っていたんです。ですから「星屑の町」インタビュー時には、「さかなのこ」出演が決まっていたのかなと考えてしまいまして……。
のん:いえ、あの時は決まっていませんでした。
――ということは、しっかりと夢を実現されたということですね。
のん:本当だ! 嬉しいな……やったー!
さかなクン:すギョいです! やっぱり“夢”は言葉にすると実現に結びつきやすいんですね!
のん:沖田監督の「キツツキと雨」がすごく好きなんです。もちろん他の作品も大好きなんですけど、いつか沖田組に加わりたいとずっと考えていました。それが今回、最高の形で関わらせていただくことになったので、本当に嬉しいです。
――のんさんは、監督としてもご活躍されていますよね。沖田監督から学んだものはございましたか?
のん:沖田監督は撮影中にも関わらず、笑ってしまうことがあったんです。自分の思い描いていたことが実現してしまうと、思わず笑ってしまう(笑)。映画への愛情、情熱がとてもある方です。現場では常に「どうやったら面白くなるだろう」と集中して考えていらっしゃいました。映画のことだけを考えている。そんな沖田監督の“集中”に乗っかることができると、私の芝居も自ずと良くなっていく。そういう良い作用があったんです。私もこんな現場を生み出していきたいなと思いました。
●自分の「好き」を信じる――のん&さかなクンが大切にしていること
――「自分の好きなこと」と「仕事」の両立の難しさという点が、ひとつのテーマになっているようにも思えました。これは、誰もが直面する問題なのかもしれません。もしも、このような問題に悩んでいる人がいるとすれば、どのようなメッセージを投げかけますか?
さかなクン:お仕事されていると、悩みや葛藤がいっぱい生じると思います。さかなクンは、ずっとお魚が大好きの気持ちで、お仕事を続けさせていただいています。感動もやりがいもいっぱいありますし、幸せも大漁でギョざいます。
でも同時に「難しい面」というのも、ギョざいます。特に、時間に追われることがいっぱい!! 毎日、毎日、大体時間に追われています(笑)。「ギョギョ! 締め切りが迫ってきているギョ…! 間に合わない…!」となったりすることもしばしば。でも、こう考えています。「この貴重なギョ機会はチャンスだギョ!!」と発想を変えてみるのでギョざいます! ピンチをチャンスに変える。発想を変えてみるだけで、辛い”が“幸せ”に変わります。
さかなクン:海が見たかったのでギョざいます(笑)。
のん:しかも、午前3時にです。
さかなクン:のんさまにお魚ちゃんをお届けしたくて……。(部屋の隅に置いてある箱を示して)あそこにずらりと(笑)。
――インタビューの部屋に入った時から気になっていましたが、あの発泡スチロールの箱は、漁で獲ったお魚が入っていたんですか! すごいですね…!
さかなクン:やっぱりお魚と出会うと元気になるんでギョざいます!
――「好き」を貫くということは、素晴らしいことだと実感しました。
さかなクン:「好き」なことは、めちゃくちゃ張り切ることができますから!
――「好き」を手放してしまいそうになる瞬間はあったりしませんでしたか?
さかなクン:そんなことは絶対にギョざいません!! お魚が大好きな気持ちから離れようなんてことは、一度もギョざいません。
――のんさんは、いかがでしょうか?
のん:私が一番大切だと思っているのは、自分の「好き」を信じるということです。さかなクンも同じだと思うのですが、「好き」であり続けることを“普通”だと信じる。それは他人から見たら“普通”ではないことなのかもしれません。でも、自分にとっての大切なことは変わらないですし、それが正しいと思い続ける。それが大事なことかなと思いました。
「これが“好き”で生きている」ということに誇りを持ってほしいです。「さかなのこ」を見ると、そう考えている自分に自信が持てるはず。そして、自分の「好き」を肯定してくれるような人に出会ったら、近づいていって欲しいと思います。きっとこれまで以上に頑張れるはずです!
さかなクン:ギョギョッ♪♪ さかなクンも先輩からかつてこんなことを言われたことがあります。「魚を“仕事”にするなんて、絶対だめだぞ。魚は趣味だけに留めておきなさい」と。さかなクンには、その意味がさっぱりわかりませんでした。「これは趣味なんかじゃない!」と考えていましたし「これが趣味だったら、しゅみません」という感じでギョざいます。
一同:爆笑
のん:さすがですね! 情報処理能力がすごい(笑)!