「崖っぷちの気高さ、言葉選びの鋭さに痺れる」辻占恋慕 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
崖っぷちの気高さ、言葉選びの鋭さに痺れる
大野大輔監督の描く物語世界では、いつも登場人物たちが何かしら崖っぷちに立ち、それでいてどこかその境遇を楽しんですらいるかのような異様な気高さを身に纏っている。作品の基調をなすのは膨大なセリフの応酬だが、その一つ一つを彩る心を突き刺す言葉選びとレトリック、一癖も二癖もある独特の論理は本作でも健在。それらは小さなうねりを生み、反復とズレの合間に矜恃を迸らせ、ラブストーリーとも、音楽映画とも、三十路の泥沼青春ロマンとも言いうる世界を、大野カラーで存分に塗りたくっていく。前作に比べてどこかシュッとした容姿へ変貌した主演俳優としての大野大輔も、蓋を開けてみると、厄介で偏屈でこうと決めたらテコでも動かない、いつもながらの彼。しかし今回は決して会話劇に終始せず、物語を展開させ、胆力を試すかのようなステージが用意されている。一枚殻を破り、新たな生態で歩みを加速させる表現者、作り手としての凄みが感じられた。
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