「返光」スイート・マイホーム ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
返光
齋藤工監督名義で作られた作品、正直斎藤工さんが制作の方で携わってきた作品がハマらなくて、今作も題材は面白そうだけどなぁと半信半疑で鑑賞しました。原作は未読です。
全編に渡って不穏な雰囲気が滲み出ており、そうならないでくれという展開に徐々に近づいていく恐怖に襲われっぱなしでした。
新居を探している時にまほうの家という暖房が家全体に行き渡る住宅を見つけ、そこに住んでみたはいいものの、地下室に何かがいたり、家での怪奇現象や外で関わった人物の死などが繰り広げられ、やがてこの家の謎が明かされる…といった感じの物語です。
何やら賢二は父親との葛藤があり、過去の虐待もあり閉所恐怖症になっており、兄も引きこもり気味と訳ありの様相を呈しています。
登場人物の多くに難が、もしくは途中で闇を抱えてしまうもので、賢二は一見まともそうに見えて、友梨絵との不倫関係にあり、友梨絵が結婚を機にこの関係を断ち切ろうとした時も賢二は口先がモゴモゴさせていたので、コイツはまともじゃないなと主人公までも疑いの目で見るようになりました。幸せな家庭がありつつも何故か他の女性に目移りしてしまう、これは何でなんだろう…。
でもその不倫の現場の写真が何故か撮られており、友梨絵の旦那の元や実家、職場までに写真が送られエグい精神ダメージを与えてきます。この時点で犯人は1人に絞られました。
なんとなーく本田さんが怪しいだろうな(とはいえ甘利も警告の意味があったとはいえ怪しすぎるので普通にこっちも疑っていた)というのは序盤の方と、同じセリフを繰り返したところと、あと奈緒さんが演じているのは何か裏があるよなと思っていたらストレートに正解で、事故で夫を、死産で子供を亡くしてしまってから妄想癖の激しい人になって、友梨絵と甘利と聡を残忍に殺し、一家の屋根裏に住み着いて、最終的には賢二までも殺そうとするイカれた女でした。ただ殺人鬼的なパワーに優れているわけではないので、呼吸困難とはいえ筋肉量が段違いの賢二に逆に刺されてしまい倒れてしまいます。
悲しい過去があるとはいえ、彼女をストップできる人がいなかったが故に生まれてしまったモンスターでした。終わり方だけ呆気なかったのが勿体なかったです。
ラストシーン、一番なってほしくない展開になってしまいました。赤ちゃんが家の怪奇現象の原因だと信じ込んでしまったひとみが赤ちゃんを殺してしまうという、直接的な描写こそギリギリ映らなかったものの、先端の尖った木の棒で目を突いて血がタラーっと流れるシーンは鳥肌ものでした。1階にいるサチの真顔も手を開いて目だけ映すシーンも恐怖を掻き立てる魅せ方で中々怖かったです。
物語のつなぎ目とつなぎ目が雑なのは残念でした。発言の一つ一つを回収してくれとまでは言いませんが、辻褄が合わない場面が多かったのが気になりました。
殺されるシーンが映されていないというのもあるのですが、本田さんがそう易々と大の男を殺せるとは思えない(狂気的ではあるものの、武力的な強さが開示されるシーンがほとんど無かったので)ので、そんな簡単に殺されるかな?と疑問に思ってしまいました。
父親との確執の回収の仕方も上手では無かったので、尺が少し伸びてでも丁寧に回収してくれたらなとは思いました。
役者陣は好演で、窪田くんの絶望した表情や静かに怒りを表すシーンがとても印象的でした。死ぬ直前の動きや息遣いがリアルにしか見えずゾクゾクしましたし、「春に散る」でも観たたくましい筋肉が不倫現場で覗けるとは思わず、見惚れてしまいました。
蓮沸さんの献身的な妻だった前半の優しい表情から、徐々に気が狂っていき、最終的に子供を手にかける時の冷酷に笑うシーンがとても怖かったです。
中島歩さんの怪しさはありつつも、クズではないのはなんだか久しぶりで、淡々とした刑事がとても似合っていました。1ヶ月で3回劇場で観ているので、めっちゃ働いてらっしゃいます。タフです。
荒いところは多いものの、邦画らしからぬ心理的な怖さで攻めてくるヒューマンミステリーは新鮮で楽しめました。過去の実績を疑っていましたが、俳優業と並行しながらこのクオリティの作品を作る齋藤監督の手腕には脱帽ものです。ぜひ次回作も観たいなと思いました。
鑑賞日 9/5
鑑賞時間 14:40〜16:45
座席 G-10