「見届けた錬金術」鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
見届けた錬金術
荒川弘の同名人気コミックの実写映画化。
原作の最終話までを2部作構成で描く、完結編の後編。
第1作は微妙だったが、前作でなかなか面白さを盛り返し、実は密かに続きが見たかった。
前作に続き今回もNetflixでスピード配信されたのは有難い。
さて、最後の錬金術の結果は…?
前作のラストで“ホムンクルス”のグラトニーに飲み込まれてしまったエドとシン国の皇子リン。
ここから直結で始まるのかと思いきや、各地を放浪するエルリック兄弟の父、ホーエンハイム。
道中、兄弟の師匠であるイズミと出会い、間もなく訪れる“約束の日”を知らされる…。
グラトニーの“中”のエドたち。
脱出不可能。ただ死を待つだけなのか…?
エドたちのみならずエンヴィーも飲み込んでしまったグラトニーは困り、“お父様”に助けを求める。アルと共に“お父様”の元へ。
一方のエドたちは自力で脱出可能の方法を見つける。それは、人体を“外”に錬成するというもの。
非常に難度で失敗したら言うまでもないが、試みる。
成功。
脱出不可能と言ってた割に序盤で早々と脱出。まあ、尺と展開の都合上仕方ない。
何もこの脱出劇が本作の要じゃない。脱出してからが本番。
脱出したエドたちの前に現れたのは、ホーエンハイム…?
否。ホムンクルスたちを創った“お父様”。
しかしホーエンハイムそっくりなのは何故…?
よくある設定だと実は同一人物で…だが、そうには非ず。
何はともあれ、このヒゲ野郎を倒す。が、今いる空間では術を使えず。
さらにリンが“お父様”により“賢者の石”でホムンクルスになってしまう…。
これはちと語弊。元々“賢者の石”の力で不老不死の身体を欲していたリンにとっては好都合。強い精神力でホムンクルスの“グリード(強欲)”と同化。
駆け付けたスカーの機転により、一時退散する。
スカーの亡き兄の文献から、“お父様”が企てる壮大で恐ろしい計画を知る。
スカーの復讐の根元である暗い過去“イシュヴァール殲滅戦”も含め、アメストリス各地で起きた内乱や争いを繋いでいくと、一つの“紋”を形作る。
それは、国中の民の命を犠牲にする“国土錬成陣”。
その一つの“準備”として、イシュヴァール人は大量虐殺された。“お父様”配下のホムンクルス、今国や軍に居る高官たちによって。キング・ブラッドレイ然り。
その“国土錬成陣”が完成する日こそ、“お父様”の言う“約束の日”。
エドはまだ犠牲になっていない北のブリッグスに赴く。アームストロングの姉、オリヴィエ少将に警告と協力を乞う。
スカーとメイは文献をさらに調べ、対策案を探る。
アルは何かを知ってるかもしれない父ホーエンハイムに会いに…。
軍に先手を打たれ、ブリッグスは隣国と戦闘。ホムンクルスも襲撃。オリヴィエはある目的を持ってセントラルに入り…。
スカーとメイは文献から対策案を見つける。それは、“裏国土錬成陣”というもの。
アルは父ホーエンハイムと再会。父の口から、衝撃の過去、“お父様”の本当の野望、“お父様”と自分の関係を聞かされる…。
数百年前、クセルクセス国の奴隷であったホーエンハイム。…いや、奴隷に名前など無い。“奴隷23号”。
ある時、フラスコの中に入った奇妙な生物と知り合う。
この“フラスコの中の小人”の知識により、ホーエンハイムと名乗り、奴隷の身から脱出。
錬金術師となり、王に謁見。王から不老不死を望まれる。
術を始めるが、この時開かれた術こそ、“国土錬成陣”。
その代償として、王も含め100万の国民が犠牲に。
ホーエンハイムと“フラスコの中の小人”は不老不死に。
“フラスコの中の小人”はホーエンハイムの姿を“容れ物”として選び、ホムンクルスを造り出し、水面下で国やトップを操る“お父様”に。
不老不死という身体と絶大な力や権力を手に入れたというのに、“お父様”が企てる“約束の日”とは…?
国や国中の民が滅ぶ陰謀を阻止する為、エドたちは決行。
エドたちとキング・ブラッドレイらホムンクルスの一進一退の攻防。
が、かつて“真理の扉”を開いた事のあるエドたち5人は“お父様”の手に落ち、“人柱”として再度“真理の扉”を開く為に利用されてしまう。
“お父様”の真の目的。“真理の扉”を開く事で、“神”を取り入れ、自らが“神”になる事だった…。
原作コミックでもクライマックスを飾るという“お父様”との闘い。
確かに序盤のグラトニーからの脱出劇になんて時間を割いていられないほどの大ボリューム。
地球から巨大な真の姿の“お父様”が現れ、宇宙に開いた扉に手を伸ばすシーンなんて、まるでラヴクラフトのクトゥルー神話のよう。
あの微妙だった第1作から、まさかこんなにも神の領域にまで達する壮大な展開になるとは…。
元々原作を読まない罪深き私。この完結編2部作を見ていなかったら、“ハガレン”に対しての印象は実写第1作のままだったろう。
是が非でもこの壮大なクライマックスを描き、真の“ハガレン”を見せたかった製作陣の本気度を感じた。
これにはただただ圧倒。
キャストもそれに応える。
山田涼介の熱演。
続投組と新参加組の豪華キャスト。
とりわけ、ホーエンハイムと“お父様”の二役の内野聖陽の存在感は際立つ。
ホーエンハイム時のユーモアも含めたナチュラルさと、“お父様”時の凄みと威厳。
豪華キャストが入り乱れて繰り出すアクション。
“お父様”と対する為、敵対していた者たちが組んで挑む様は、少年コミックの王道的展開と設定。
壮大な世界観を創り出すに、CGは不可欠。ジャパニーズ・ファンタジー・アクションの為に惜しみなく活用。
復讐、代償、真理…掲げるテーマやドラマもなかなか奥深い。
エドとアルの元々の旅の目的は、失った身体を取り戻す。辿り着いた感動のラスト。
前作に続き興行的にはまたしても大コケしたが、中身は大作並み。
難点もある。
前作と同じく、登場キャラが多くて、立場はどっちだっけ…? 目的は何だっけ…? と、こんがらがる。
複雑なワードが飛び交う。持ち合わす意味も小難しく、よく把握しておかないとついていけない。
一応は把握したつもりだが、実際は全てを把握し切れていないだろう。やはりここは原作を知らないと厳しい…。
壮大なクライマックス・バトルと険しかった旅も終わり、迎えた大団円。どう締め括るのかと思ったら、エドとウィンリィのハッピー・ラブ・エンド。原作もこうなの…?
原作ファンには残念作かもしれない。決して名作レベルの出来でもない。
が、コミックの実写化だから…と、スルーするには惜しい。
私はそう思った。
原作を読んでないので“ハガレン”の“真理”には届いてないかもしれないが、でも、
第1作で失敗したものの、この錬金術を最後まで見届けて良かった。