「並々ならぬ覚悟と原作名エピソードを基に、向上した錬金術(実写化続編)」鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
並々ならぬ覚悟と原作名エピソードを基に、向上した錬金術(実写化続編)
TVアニメやその劇場版も大ヒット。荒川弘の同名人気コミック。
2017年に公開された実写版はそれなりにヒットしたものの、原作が大人気故賛否両論。と言うか、圧倒的に否が多いか。
なので、まさか続編が作られるとは思わず、驚き!
おまけに2部作構成とは、さらに驚き!
コミック実写化の2部作構成は今や珍しい試みではない。
でもそれは、成功を収め手応えを感じた作品に限る。
控え目に言っても前作はそれには当てはまらない。
よほど今回自信あるのか、それとも制作側はファンの声や前作の結果を知らないのか…?
タイトルに冠している通り、“完結編”。原作の最終話まで描くという。
いつもながらの原作未読&アニメ未見で、作品自体が複雑で細かな設定なのでWikipediaで少し予習したら、今回の話は作品の主軸。
酷評された名誉挽回と、実写でもきっちり完結させる。並々ならぬ覚悟で臨んだのだろう。
錬金術の代償で失った身体を取り戻す旅を続けるエドとアルの兄弟。
訪れた中央(セントラル)で、国家錬金術師を狙った連続殺人事件が発生。
僅かな証言から犯人は額に傷のある男=“スカー”と判明。
やがてエドとアルも対するが、圧倒的なスカーの力に機械鎧“オートメイル”を破壊されてしまい…。
物語の立ち上がりはこんな感じ。
本名不明。謎の男、スカー。原作でも人気の、今回のキーキャラ。
圧倒的な力と術を駆使する。
錬金術師へ裁きを下す。異様なまでの執着心で、ただの殺戮ではない何か訳ありを秘める。
それは『るろうに剣心 最終章 The Final』の縁を何処か彷彿。
奇しくも演じるは、新田真剣佑。『るろ剣』に続いてコミック実写化最終章の強敵。
何かを秘めた只者ならぬ雰囲気とさすがのアクション身体能力で存在感を魅せる。
単純にvsスカーだけだったら2部作完結編にしては淡白。
これだけではない。予想を遥かに上回るボリュームだった。
エドとアルが道中出会った若い男(とお付きの二人)。シン国の第十二皇子、リン。ある理由から不老不死の力を手に入れるべく“賢者の石”を探す。
その為にエドとアルと共闘して、“ホムンクルス”のエンヴィーとグラトニーを捕獲作戦。
意外な人物もホムンクルス。大総統ブラッドレイも…!
ブラッドレイが昔下したある命令と、それによる悲劇的な事件。スカーの過去も絡み…。
国家の陰謀。ホムンクルスの創造主である“お父様”の存在…。
続投キャラに加え、新キャラも大幅に増加。
名前や用語もついていくのがやっとで、その上エピソードを盛り込み過ぎ。
2部作最終章だからと言って何もこんなに詰め込み過ぎなくても…と思ったら、原作通りのようで。
最も、原作の大長編を約4時間半の2部作に詰め込んだ感は原作未読でも感じるが、その分ストーリー的に飽きはしなかった。
事件勃発や各々の思惑、陰謀など交錯するが、やはりとりわけ印象に残るのが、“イシュヴァール殲滅戦”だろう。
原作でも特に悲劇的なエピソードらしく、マスタング大佐ら多くの錬金術師の過去のトラウマとなり、スカーの“復讐”となった作中の歴史的事件。
将校がイシュヴァール人の子供を誤殺してしまった事件がきっかけとなった内乱を終わらせるべく、大総統が錬金術師を“人間兵器”として繰り出しイシュヴァール人を一人残らず殺害するという非人道的な命令。
この殲滅…いや、殺戮で多くの同胞や兄を失ったのが、スカー。しかも兄は、スカーを助ける為に我が身を犠牲に…。
錬金術師を抹殺するという殺人者と当初は思ったスカー。が、その過去には彼のイメージを覆すほどの悲劇があり、憎しみたぎらせる復讐心も分からんではない。
だからと言って、彼の行為が正しい訳じゃない。殺戮から生まれた彼もまた殺戮者だ。ある罪を犯す…。
イシュヴァール殲滅戦時、怪我を負ったスカーを手当てした医者夫婦がいた。敵対するアメストリス人ながら、医者として多くのイシュヴァール人を治療。
が、どんな精神状態だったのか分からないが、スカーは手当てしてくれたこの医者夫婦を殺害。
医者夫婦には娘がいた。エドとアルの幼馴染み、ウィンリィだった…。
スカーがアメストリス人や錬金術師を憎む気持ちは分かる。
ウィンリィがスカーを許せない気持ちは分かる。
スカーもアメストリス人や錬金術師を許せないが、ウィンリィには自分を殺す権利があると言う…。
悲劇は悲劇を生む。復讐が新たな悲しみと復讐を作る。人が争いを続ける限り断ち切れる事の無い負の連鎖…。
それらを止めるには…。
それぞれが苦悩する複雑な事情が交錯。争いや憎しみ悲しみの根元、現実の戦争問題へも投げ掛ける、このドラマ性は本作に於いて大きかった。
開幕のエド&アルvsリン一派から始まり、
メインのエド&アルvsスカー。
マスタングvsスカー。
リン一派vsブラッドレイ。
エド&アル&リン一派vsエンヴィー&グラトニー。
そこに、スカー参戦。
とにかく入り乱れ入り乱れのバトルは、時々あれ、誰と誰が今共闘してるんだっけ?とか、目的はなんだったっけ?とか、こんがらがる事もしばしば。
錬金術=CGを駆使したバトルや見せ場は前作から格段に進歩。
元々原作の大ファンという山田涼介。彼自身も最後までやりきりたいと望み、大コケした『大怪獣のあとしまつ』の汚名返上。自身の代表作にするべく、こちらもまた並々ならぬ意気込み。
ディーン・フジオカ、蓮佛美沙子、その怪演ぶりを覚えていた本郷奏多と内山信二ら続投組。本田翼は前作より演技力が向上していた(スカーへぶつける憎しみと悲しみのシーンの演技はなかなか悪くない)
新参加組では真剣佑は勿論、
リン役の渡邊圭佑、その臣下・ランファン役の黒島結菜、スカーと交流を持つメイ役のロン・モンロウ、出番は僅かだが山田裕貴や山本耕史、そして重要キャラであるブラッドレイ役の舘ひろしにエドとアルの父ホーエンハイム役(ともう一役)の内野聖陽。
気が付いてみたら、何と豪華キャスト!
さらにここに栗山千明や仲間由紀恵も加わるらしく、どーでもいいと思った寺田心演じるブラッドレイの息子セリムも原作では意外な設定らしく、皆の動向含め確かにこうなってくると後編が気になる。
先述したが、ボリューミーでダイジェスト的なエピソードやキャラ描写もあり。
前作同様、豪華キャストによるゴージャスなコスプレ劇な雰囲気も拭い切れない。
続投の曽利文彦監督の演出は、原作の人気エピソードや名シーンの再現、アクションやCGに固執する余り、本来の演出面や間や展開にチープさを時折感じてしまう。
元々の原作エピソード、キャストの熱演、ロケーションがいいだけに、何だか惜しい。
そう、今回もまたロケーションは素晴らしい。ロケーションだけなら満点と言ってもよかろう。
前作から大幅に傑作へ!…とはならなかった。
コミック実写化戦国時代の今日に於いても、及第点と言った所。
でも、前作のイマイチな感じから改めたようで、アクション、キャラの魅力、ドラマ性や面白味は前作から随分と良くなった。
それだけに、前作から大幅ダウンの興行成績は残念無念…。(公開時ほとんど話題にならず、続編が作られた事を知らない人もいるのでは…?)
グラトニーに飲み込まれてしまったエドらは…?
ブラッドレイと国家の陰謀。
原作のクライマックスを飾る“お父様”との対峙…。
何だかんだ、続きが見たい。
Netflixでスピード配信。
完結編後編『最後の錬成』も早く配信してくれないかな…。