BAD CGI SHARKS 電脳鮫のレビュー・感想・評価
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かなり出来のいいメタ「サメ映画」
今までに見たZ級サメ映画の中で間違いなく一番面白かった。ここまで面白いともはやZ級と呼んでいいのか疑問ですらある。
幼い頃に自前のオモチャと想像力でオリジナルのサメ映画を製作していた兄弟。しかしいつまでも子供じみた夢想にふけり続ける兄とは対照的に、弟は学業と仕事に励むようになり、いつしかサメ映画への憧憬を忘れていく。
要するに本作はつまらないリアリストに成り下がってしまった弟が周囲との交流やサメとの対決を経てもう一度サメ映画という野望に向き直る、という筋立ての映画なのだが、彼らが対峙する本作の「サメ」のありようは異常としか言いようがない。
本作におけるサメは、実体を持った電脳生命体として陸を駆け回る。しかし、これだけではサメがトルネードに紛れて陸地の人間を襲いまくる『シャークネード』や、なぜか実体のある霊体サメが暴れ回る『ウィジャ・シャーク』といった類似品が存在しているから(そもそも存在していること自体も普通に考えたら異常なんだが・・・)特段不思議ではない。
本作のサメが面白いのは、彼がメタ的な自我を持っていることだ。彼は「サメ」という表象がハリウッドにおいてどのように濫用されてきたかをよく理解している。彼らは頭の悪い監督やプロデューサーに都合よく呼びつけられ、仕事の雑なCGクリエイターに粗悪なCGの肉体を着せられ、無価値なエログロナンセンス劇の格好の触媒として今日にいたるまで酷使され続けてきた。彼はそのような不遇を嘆き、本当のサメ映画、つまりサメが主体のサメ映画の復権を志す。
当然、この哀しきCGサメにとって兄弟の野望は真っ先に打ち砕くべき邪念に他ならない。これ以上クソみたいなサメ映画を量産するな、と彼は何匹もの刺客(これまたあまりにもCG造形が酷い)を送り込む。これに対して兄弟は幼き頃にしたためた「脚本ノート」で対抗する。叩かれたサメは慌てて退散。力強い想像力には何物の力も敵わない、ということなんだろうけど、兄曰く「紙で手とか切ったら痛いから」らしい。
兄は結局CGサメに捕らえられてしまうのだが、最後は弟が「脚本ノート」に映画の続きを書き加えたことによりCGサメは爆発四散する。もう素晴らしいくらいのメタフィクション的解決だ。
自我を持った被造物、監督による物語への介入、空想と現実の対立。思えば本作にはメタフィクション的な道具が揃い踏みしている。それらを用いながらも過度なニヒリズムに陥らず、あくまでエログロナンセンスを基調としたZ級サメ映画を作り上げた監督には万雷の拍手を送りたい。
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