「騙されるけどヒューマンで」シャイロックの子供たち るいまーるさんの映画レビュー(感想・評価)
騙されるけどヒューマンで
冗談抜きで騙し、騙され。誰が悪なのか。全員が時に主役に、脇役にも。多面的な人間性に、バンカーとしての振る舞いに観る者の銀行への事前知識は不要で。堅苦しい表情というより笑い声が思わずのシーンも多数で。また池井戸潤作品にやられました。
サダヲさん。まきもとのような誠実な男。でもあの時のようにおっちょこちょいよりもできるプロフェッショナルさが。闇を暴いていく背中が頼もしく。他の銀行員よりもちょっとユーモアなアプローチ。そんな愛おしさが作品中に溢れ出して。どんな悪でもオブラートに包みこんでいって。
上戸彩さん。つい花…と。程よいサバサバ感に頼れる理想の上司。そのリーダーシップが時に思わぬ方向に。でも自分の信念、軸がしっかりとしていて。そこに曲げない頑固さ、オフホワイトな想いは感じられなくて。ドSな部分もあるけど不意にみせる優しさに幸せな気持ちいっぱいで。
柄本さん。カメレオンすぎて…。変幻自在なそのドリップ。表情、所作どれをとっても脳裏に焼きついて。結局良き人か未だに迷宮入りするあの男沢崎。無邪気な場面では可愛らしくてキュンで。でも途端に真顔になって。観るこっちまで忙しくなる喜怒哀楽がそこにはあって。
ちょい役ではなく、玉森さんが様々なシーンを大いに彩っていて。今を悩む若手行員の想いを代弁するような忠誠心で。潤之介のような愛おしさと可愛らしさも兼ね備えていて。でもどこかで秘めたるものを抱いていて。将来があるからこそ…な部分もあって良きアクセントに。
蔵之介さん。この表情を上映前後で見比べてほしい。その印象がまるで…。コテコテの蔵之介さんに出逢えた喜びにも満ちて。コテコテだけどエレガントに聴こえてしまうのはなぜなのかと。ずっと聴き惚れていたいくらい。嘘八百な男か否か。身内だけど外部な職に打ち込む想いがなんとも…。
隆太さん。熱くて、熱くて、熱い男。真のおかれている状況下が複雑すぎて○✕ではその答えは導けなくて。大人になるにつれて増える責任感、守るべきもの。課長代理という立ち位置も今思えばなところがあって。嫌がらせ弁当と同じような優しきお父さんに…。
柳葉敏郎さんのFCご招待枠があったように九条という男がどんなにキーになってくるか。社会人にとって出世に勝るものとは。彼が握りしめているのはお金か、はたまた…。思っているだけの誘惑ではなくて、それが叶ってしまう支店長というポジションが絶妙かつ巧妙で。
橋爪さん。行列にスッと割り込むような透明感でそのずる賢さを遺憾なく発揮して。橋爪さんを嫌いになってしまうくらいに。夢に石本が出てきそうで。その良し悪しを判断するのはあなた次第。
哲太さん。副担任、副顧問ばりに怒ったら怖いよ感の”副"支店長。部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任。パワハラといっても何ハラなのかと。たくさんのハラで迎い入れて。一夫の孤独のグルメではせめてほっこりさせてくれると。ニコニコなシーンでは哲太さんの愛嬌も。
全員を疑うよりもなぜこうなってしまったのか…。悪の中にも良心あり。完璧な人間なんて。そんな通帳には記帳できない温かい人間味に出逢えて。そして、皆で仕事するって良いなと。一人で抱え込まない。時にパワハラ、ノイローゼになるけど…。喰うも喰わぬも人であり。
どうせ半沢…。それもそう。でも10倍返し、100倍返しの期待値を上回る裏切りがそこに。予告編を何度も観て本編に没入するとそのギミックの高さにも驚いて。初めからみくびってしまうとそこで試合はおしまいデス。