「リアルなYouTuberを描けていたか?」神は見返りを求める komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルなYouTuberを描けていたか?
(完全ネタバレなので必ず映画を見てから読んで下さい)
私的にはこの映画に出てくるトップYouTuberがリアルに描けているのかは疑問でした。
個人的な実際のトップYouTuberへの印象は、扱われている内容がくだらなくて軽薄で大金を湯水のごとく使う中身でも、内容やコメントに対する根底に流れる姿勢や心情はあくまで真摯で真剣だった印象です。
つまり、私が(底辺YouTuberは分かりませんが)実際のトップYoTuber達に感じていたリアリティは、大げさ軽薄無駄遣いの悪印象と、対象に真摯に向き合う好印象の、重層的な好悪混合の姿でした。
この(軽薄な内容でも)内容や視聴者への真摯な姿勢がないと、とても100万回以上の再生を毎回叩き出すことなど難しいのだな、との個人的な印象です。
吉田監督はYouTubeやYouTuberへの取材をしたとのことでしたが、私が彼らから受けていた重層的リアルをこの映画で描けているとは思えませんでした。
むしろ、よく知らない世間がステレオタイプ的に嫌悪して安心する描き方だったと思われます。
例えば最終盤で川合優里・ゆりちゃん(岸井ゆきのさん)は、トップYouTuberのチョレイ(吉村界人さん)とカビゴン(淡梨さん)とのYouTube撮影で実際に火だるまになり大やけどの重傷を負うのですが、この内容をチョレイとカビゴンは病院で撮影し配信?しています。
しかし同様の生死に関わる案件を配信した場合に、批判的な大炎上になるのはYouTubeでも同じです。
つまり、生死に関わる案件を(YouTube初期はいざ知らず)ここ数年でトップYouTuberが流すのはリアリティに欠けると思われるのです。
また、この映画でのトップYouTuber達が流す映像も映画でのセリフにも反してセンスがあるとは思えませんでした。
実際のトップYouTuber達は、その評価は別に、着ている服装も部屋の中のインテリアも、高級品をまとっていてバカみたいにリッチです。
もちろん、内容のくだらなさ軽薄さに対して背景のリッチさを皮肉るやり方ならあったとは思われます。
しかし映画の中のトップYouTuberのチョレイやカビゴン達は、単に貧乏くさいダサさとして描かれていたように感じました。
そのリアリティを無視してこの映画のような表現にしたのは、ひとえにYouTuberをステレオタイプ的にどこかで否定したい吉田監督の欲求があったのではと感じられました。
そのようにYouTuberを描いた方が、主人公の田母神尚樹(ムロツヨシさん)との対比で、田母神の価値観が分かり易く際立つことになると思われるからです。
これは、主人公の価値観を際立たせるために、逆側の人物をモノ的に扱ってしまっているこの映画の本質的な弱点から来ていると思われました。
例えば、Yurichan-channelの海岸砂浜でのYouTube撮影で、石を叩き落とし続けている話が通じなさそうなおかしな男が出て来ます。
主人公の田母神は、映像デザイナーの村上アレン(栁俊太郎さん)に、その石を叩き落とし続けている男をドローン撮影の画面に入らないように排除するように命じられます。
ところでこの石を叩き落とし続けている男はどうしてそこにいるのでしょうか?どうやってこの海岸までやって来たのでしょうか?
私にはこの男がそこにいる必然性が伝わらず、こういう男がそこにいたら面白いよね、とモノ的に配置されているように思われました。
とてもその男の人物背景が考えられそこに存在させているようには思えませんでした。
この人物をモノ的に配置して面白がるやり方は、表現として15年は古くてダサいとは私には思われました。
人物の背景を深く考えぬままモノ的に登場させている場面は、田母神がバスケットゴール近くで撮影している時にやって来る怒鳴り散らす男にも感じられました。
この映画には様々な人物が登場しますが、そのいずれも表層的に露悪的に描かれているように感じました。
つまり川合優里・ゆりちゃんだけでなく、主人公の田母神も、他のYouTuberも、その他の登場人物も、相手の背後の重層的な部分をしっかりと想像できていない描かれ方になっていると思われました。
それはラストにそうなるよな‥とは私には思われました。
この映画は他者への深い重層的理解のないまま、演出している側の固定された善悪の線引き(価値観)で人々を断罪している(あるいは嘲笑している)と思われました。
であるので、この映画を私は評価できないな‥とは残念ながら思われました。
川合優里・ゆりちゃんやYouTuberをもっとリアルに重層的に描いても、善悪をはっきり線引きせずグラデーションの中の価値観でも、十分、というか逆にもっと深く、田母神の悲劇は描けたと思われます。
なぜなら他者をどんなに想像し深く重層的に描いても、必然と偶然でのその人個人の底からの悲劇はどうしようもなくやって来てしまうと思われるからです。
私は自身と違う人間(他者)をモノ的に描いてはダメなのではないかと思われています。
話の筋は面白さはあったと思われます、ムロツヨシさんと岸井ゆきのさんの演技は素晴らしかったと思われます。
点数はそこも合わせた評価となりました。
(辛い評価で申し訳ありませんでした‥)