「物語の土台がしっかりとした骨太の映画でした」かがみの孤城 映画初心者さんの映画レビュー(感想・評価)
物語の土台がしっかりとした骨太の映画でした
当初はまったく見る予定の無い映画でした。というのも予告編から受けた印象は子供向けのベタなファンタジーであり、大人が見るべき映画ではないと感じたからです。
しかし予想以上に長い間上映されているのが気になり、ネットで確認してみたら予想外の高評価で驚きました。しかも不登校をテーマとした大人向けの内容だというのです。それで興味を持ち自分も見ることにしました。
結果、良い意味で完璧に予想を裏切られました。実に骨太で土台のしっかりとした物語であり、子供から老人まで世代を問わずに心を打たれる作品だと思います。
みなさん知っての通り、この映画はかがみの中にある不思議なお城の話です。そこで願いの叶う鍵を探すというファンタジーなのですが、実は、城とか鍵探し自体は物語の核ではありません。物語の核は、主人公の中学一年生の少女"こころ"と、こころと同じく城に集められた同年代の少年少女たち、そしてこころの周りにいる大人たちの人間描写なのです。
かがみの中の城は、不思議の国のアリスなどとは違い、行ったきり物語の最後まで戻れないという場所ではありません。こころ達が自由に出入りできる空間です。城に行ける期間と時間帯は決まっており、こころ達はおよそ一年の間、中学一年生だったこころが二年生になるまでを現実世界を過ごしつつ、家にある鏡をくぐって時々お城に行くという形で物語は進みます。
主人公のこころは不登校児です。こういうタイトルの映画であれば、かがみの城を背景にして映画のタイトルが表示されそうなものですが、実際には、学校の教室にあるこころの机と椅子を背景にして映画のタイトルは表示されます。にぎやかな教室なのに、その席には誰も座っていません。教室の風景は真っ黒にフェードアウトされ、暗闇のなかにポツンとある机と椅子を背景にして「かがみの孤城」というタイトルが表示されます。映画の冒頭でそのタイトルを見て、私はこの映画の本質を知った気がしました。
こころがなぜ不登校なのかは、段々と観客に明かされます。その理由は理不尽で残酷なものであり、観客はこころと一緒になって傷つき、戸惑い、苦しみます。そして他の少年少女にも同じような境遇があることを知ります。最初はお互いに距離感のある彼らですが、城で一緒に過ごすうちに、段々と親密さを増していきます。
やがて物語にミステリー的な要素が加わり、いくつかの謎がクライマックスを経て明らかになっていくのですが、それが実に巧みに作られていて、いわゆる伏線回収の爽快感があります。
しかし、こころ達の人間描写が物語の核としてしっかりとあるからこそ、そういったミステリーや謎解きが生かされているという印象を受けました。仮にミステリーや謎解きが無かったとしても、不登校や友情というテーマだけで十分に面白いのです。その上で素晴らしいミステリーや謎解きまで加わっているのですから、見た後に素晴らしい満足感がありました。
不登校という重いテーマですが、その解決策は決してご都合主義的なものではなく、とても現実的なものだと感じました。最初は不登校のこころを問い詰めてしまった親も、映画の最後には見違えるほどに成長します。そして、最後はとても前向きで爽やかな気持ちになることができました。最後の10分間くらいは、私は涙でスクリーンが見えなくなり、再び映画館に通って見逃したシーンを見ることになりました。
文句無しの星5です。