「魔法だけじゃ解決しない、でも光が溢れる、ここからの物語」かがみの孤城 Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
魔法だけじゃ解決しない、でも光が溢れる、ここからの物語
原作は未読での感想・解釈です。
「オオカミサマ」の名乗りの訳の愛らしさに、最後に気づくことになりました。リオンの姉は12歳で亡くなった。まだ子どもでもある姉が、弟と遊ぶ時の稚気。「私はオオカミサマよ。言うことを聞きなさい」
◉孤独のゲーム
孤立から抜け出ようともがいて、でも脱出の糸口を見出せずに不登校を続ける子どもたちが送り込まれた、魔法の城。級友からのイジメ、家族との不仲、親からの過度の期待、友達づき合いの拙さなどが原因で、寄るべなき孤独の檻に押し込められた、こころ、リオン、スバル、アキ、マサムネ、フウカ、ウレシノ。7人は縦に連なるパラレルワールドで集められていたと言うことですよね。
ところが海に浮かぶ島が持つ魔法は、単純な仕組みではなかった。子どもたちは「孤立から解き放たれたい」と言う共通項で結ばれているのに、最初に鍵を見つけた一人だけが願いを叶えられる、「独り」が際立つルール。更に時間制限があって、凶悪な狼が現れる。
◉戦わない子どもたち
子どもたちはしばし戸惑った後、何とはなしの時間を過ごし始めて、ティータイムやゲームや自分語りを心から愉しむようになる。観ていて癒されるけれど、切ない気持ちも当然、湧いてきました。ファンタジーの城でしか楽しめないとしたら、現実は一体、何だと言うのだ?
しかし「独りの勝者」を保留にした子らは、とても優しい子どもたちであることも、次第に伝わってきました。
それにしても、それにしても。何のためにこの子らは集められたのだろうと言う、観る側の疑問を放置した展開。鍵探しをするために集められたのに、鍵探しをしないと言う矛盾を抱えて話が進んだのです。この曖昧さをどう感じるかが、作品の評価にも繋がるのでしょうね。
私は、子どもたちは知らず知らずのうちに、ゲームの質を変えようとしていたのかも知れないと思ったのです。一人一人がこっそり鍵を探していたのは、「願い=皆が孤独でなくなる」を全員が共有するようになっていたから。
たとえ魔法が万能でも、それで解放されるほど孤立の檻はヤワじゃないと言う、子どもたちの自覚と叫び。6匹のコヤギはアキを救って、でも全てはこれから始まる! と言うのが良かったです。様々な人の力も充分に借りた上で、自力で前に進むしかないと決意するこころ。
こころの親友の萌が、級友のイジメグループのことを、今の彼女たちは本当にどうしようもないつまらない存在で、あのような子たちに影響されずに向かっていかなきゃと断じたのに、私も胸がすく思いをしました。
それをもっと早く言ってよと言う話ですが、イジメから解放されるには、心に多少なりとも尖った力を持とうとすることが大切でしょう。
前の方に溢れる光が、読後感に重なって、本当に気持ち良かった。
Uさん さん
コメントありがとうございます。
萌の行動は最初不審でしたね。早く言ってよ…なんですが、彼女も葛藤していたことが分かります。「今度は私が除け者にされて、こころとは逆に仲良くするはず」と読んだ彼女は、そうなるように行動できなかった。そのまま転校してしまうことに後ろめたさが込み上げたのだと思います。
そのうえで「負けないで」と言うのだから、 二度と同じ過ちはしない強い決意を持って、こころにもエールを送ったのだと感じました。
Uさんさん、コメントありがとうございます。
何でも魔法で解決!といったファンタジーが多い中、これだけ孤独の本質に迫った心理描写も良かったです。
リオンの姉のことなんてスッカリ忘れて物語を追ってしまいましたが、まさかここまで感動できるとは・・・やっぱり上手いわぁ。