「「粘り勝ちですよ」のライバルの一言に目頭が熱くなる」アイ・アム まきもと Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)
「粘り勝ちですよ」のライバルの一言に目頭が熱くなる
予告編でお見送り係の廃止が伝えられた。その後の「まきもとさん、あなたの粘り勝ちですよ」は、お見送り係の存続を告げる、市の職員の言葉だと信じて疑わなかった。まさか、警察官(松下洸平)の鎮魂の一言とは想定外。この驚きが感動を締め括ってくれました。
まきもとさん(阿部サダヲ)の死は遣り切れないし、救いのカケラもないように思えます。でも、思い切って哀しみに目をつぶれば、きっと温かい大団円なのでしょう。そう思うことにします。
なお、原作の「お見送りの作法」は観ていません。
◉荒ぶる魂と奇矯な魂
荒ぶるが故に、結局は孤独な人生を送ることになってしまった蕪木(宇崎竜童)の魂に、一途で奇矯なるが故に、仲間から孤立するまきもとさんの魂が、ぐうっと寄り添っていく。担当者として最後のお見送りと言うこともあって。
どう見てもコスパの枠にも、スタッフの枠にも収まらないまきもとさん。その日々の暮らしの最大のご執心は金魚であり、その人生の最大のご執心は、心のこもったお見送りをすることである。だから、身元不明のお骨は火葬が済んでも手放せない。
◉心優しき偏執狂
どこの現場にも飛んで行って遺留品をかき集め、関係者の情報をルーペで調べ上げ、アルバムを丁寧に作り続けてきたと言う、筋金入りの偏執狂・コレクター。観る者は、どう見ても普通と異なるまきもとさんの素行を知らされたことで、同僚たちより彼に近づけた気分になります。
◉私の方が叫びたかった
「君は自分の行く末と、お見送りを重ねているな!」と局長が、まきもとさんに叫ぶ。そうだ、それの何が悪い! と思わずシアターの暗がりで叫ぶところでした 笑
ただ私がそうであっても、まきもとさんの場合は分からない。遥かに超越したステージで、たった一人で亡くなった人の弔いや供養のことを、想っていたのかも知れないです。
しかし生者はご遺体やお骨になると、呆れるほど物と化す。しかも、最高の敬意を求める。だから時によっては扱う側は困って、早く荼毘に伏して地中に埋めてしまいたいと願う。これは、近親者や仲間でも例外ではなかったりします。
まきもとさんはひと時でも、そのコスパの時間の流れを止める存在であったのでしょう。
◉浄化され、浄化していく魂の旅
蕪木を訪ねるまきもとさんの行脚は、恋人、娘、同僚たちの想い出や過去も露わにしていきます。晒されるほどに、人の胸に染み込む秘密。まきもとさんに問われて呟くうちに、皆の愛憎やしがらみが少しずつほどけていく状況が、とても気持ち良かった。
◉白鳥の恋は儚い
人らしい感情など失った蕪木が、白鳥に心惹かれて写真を撮っていた。同じ場所の白鳥の写真が娘・塔子の独り暮らしの家にあるのを見つける。白鳥がきっかけになって、塔子の気持ちに近づく、まきもとさん。まきもとさんの赤裸々な一途さに、心が静かに揺れる塔子。
一眼レフを買った時、塔子と近づいた気がして、初めてまきもとさんが頬を緩めましたね。その後に死が控えているとは知らない、神ならぬ身の喜び。何とも儚いなぁ。でも、それが誰も知り得ない人生の秘密でもあるのですね。
近景にまきもとさんがいない、蕪木の納骨。遠景に蕪木たちの魂が見送る、まきもとさんの納骨。どうしたのだろうと訝る塔子。ややアンバランスにも思える景色は悲しかったですが、ここはまきもとさんの意志は無言のまま、皆さんの心にしっかり残されたと言うことで。
「川っぺりムコリッタ」でもそうでしたけど、魂の住む空の方へと、想いを募らせる生者たち。切なくとも、柔らかく結ばれて生きていく人たち。
こちらこそいつも共感ありがとうございます。
コメントとても嬉しいです。
阿部サダヲさんは、殺人鬼や「彼女がその名を知らない鳥たち」の
愛し過ぎる夫など、すごい役者ですね。
松下洸平の警官が「粘り勝ち」と思わず嘆息するところ、
胸を打ちましたね。
イギリスが舞台のオリジナルの方は、満島ひかりさん役のケリーに
ジョン・メイ(主人公)が仄かな恋心を持つ幸せ感の中、
突然の事故でした。
白鳥のエピソードなども、とても良かったですね。
蕪木さんは「食品に小便」はいかなる労使交渉にしてもアウトでしたね、学も理性もゼロのデタラメさは特出。そもそも犯罪です。そこだけは押さえて欲しかったです。模倣犯もあり得ますから。
今晩は。
まきもとの自身の墓の件ですが、オリジナル作品で、エディ・マーサン演じる主人公は墓地の中で”一番良い場所”を生前に確保していたのですね。
本作では、そこがコメントされていませんが、彼にとって、癒しの場所だったのだろうと思いました。
けれど、その大切な場所を彼は徐々に真の人間性ある姿が明らかになった“蕪木”に譲ったのですよね。
では。佳き作品でありました。
面白いもので火葬の習慣がない地域(土葬かな)では、火葬を勝手にしたために遺族が怒ってしまったという映画もありました。何の映画だったかさっぱり思い出せません・・・