「分かりやすいのかわかりにくいのか妙に判断が分かれる…(採点内容でネタバレ含む)」アイ・アム まきもと yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
分かりやすいのかわかりにくいのか妙に判断が分かれる…(採点内容でネタバレ含む)
今年286本目(合計561本目/今月(2022年9月度)29本目)。
金曜日はこちらの映画をチョイスしました。
他の方も書かれている通り、孤独死を担当する「おみおくり課」を舞台に一人の職員の奮闘を描く映画です。
ストーリーとしては(表立って)難しい話が出てこないので理解はしやすいですが、かといって中高生の子がみるのも想定はされていないと思います。
他の方と同じ感想を書いても仕方がないし、この映画は「特異な論点」が多いので早速採点いきましょう。
--------------------------------
(減点0.6/日本の法律と乖離している)
この映画は紹介にもあるように、もとはイギリス・イタリアのちょっと前の映画を日本風にリメイクしたものです。リメイクですから、多少は日本風にしているはずですが(登場人物の名前がイタリア人風だったら変)、基本的には原作にそっているはずです。
しかしここは日本だし映画の舞台も日本にうつっている以上、日本の法律が当然適用されます。論点は2つあります。
▼ 身寄りのない人の火葬・埋葬について
これは「墓地埋葬に関する法律」に定めがあり、さらにはなんと明治32年の「行旅病人及行旅死亡人取扱法」という法律(この当時なので漢文風の法律。ただし現在でも有効)を参照している事項です。
この映画のように「身寄りのない人の火葬埋葬」に関しては、いくつも分岐が発生します。あまりに面倒な上に、公衆衛生に関する法律なので(細かい事案はどうするか等)令和2年度に質疑応答集が公開されているくらいです。
----
・ 身寄りのある親族はいるか
・ いるとして、生活保護を受けているか、それに準じる状態、またはDV被害者等の状況か(←墓地埋葬に関する法律の当時は、DVの論点などなかった)
・ それらでないとして、死後の相続をするか放棄するか
・ (意外にも)亡くなった方の預貯金が、一般の銀行かゆうちょか(一般の銀行とゆうちょでは、本人分の葬式代を行政がとりあえず「本人の預貯金」を目当てにして建て替えた場合、その支払いを銀行/ゆうちょが認める場合と認めない場合があります)
----
…というように実にバラバラな一方、「お葬式」というのは、そうした法律や条例は当然適用されても、争いがある場合(身寄りのある親族が無視を決め込むなど)は、とりあえず「葬式を優先して行う」ようになっています(国民の死者に対する感情に配慮しての対応)。
法律上は、これら条件をチェックして「建て替えたので親族の方に払ってもらう」場合でも無視を決め込まれることが結構多いものです。この場合、極論は(裁判を経て)差し押さえをしたり、各種の民法の規定を活用することになりますが(ただ、本当に親族にお金がないなど、取れないものは取れない…)、実際問題、そんなことをやる行政はまずもっていないので(仮に大金持ちであっても、人が亡くなっているのに裁判だの差し押さえだのというような地方自治体は存在しないも同然)、映画内で「主人公がとっている方法」は法律上正しくないのです(あのようなに「個人がとる方法」は法律上想定されていない)。
※ なお、「墓地埋葬に関する法律」では、このような場合でも、火葬・埋葬(=土葬、土に埋めること)を(一般のお葬式と同じように)行いますが、埋葬(=土葬)は条例で禁止されている都道府県が多いので(特に大都市)、一般に火葬です。
▼ 工場でケガをしただの何だの
これは明確に労働災害にあたるケースなのでそれを申告して争う形になります(申請が却下された場合、不服審査を経たうえで(不服審査が必ず必要)、その上で行政事件訴訟法で争う形になります。
映画内の描写は不十分で、積極的な意図はないと思いますが「労働災害を申請されては困る(特に工場は労働災害が発生すると、地方の労基などが巡回してきたり面倒になる)ので隠蔽する」という、それこそ30年くらい前の古い風習が今でも残っているのかということになってしまいます。
--------------------------------
これらを勘案すると、7月だったか8月だったか「日本が舞台なのだけど、実は元の小説がイギリスで、いきなり所有権だの何だの法律ワードが飛び出して混乱させる」類型(TANGだったはず)と同じ状況になっていて(ただ、よりマニアックな話であるにすぎない)、知識がある人ほど「何がどうなっているのか謎」という状況になってしまうのです。