劇場公開日 2022年9月30日

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「牧本氏の存在が自分の中に想定できるかどうかで評価が分かれそう」アイ・アム まきもと アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0牧本氏の存在が自分の中に想定できるかどうかで評価が分かれそう

2022年9月30日
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鑑賞方法:映画館

2013 年の英伊合作映画「おみおくりの作法(Still Life)」のリメイクとのことだが、オリジナルは未視聴である。孤独死が発生した場合、死因の捜査までは警察の仕事だが、事件性がないと死因が特定された後は市役所の業務になるらしい。身内の人を探して遺骨の引き取りとそれ以降の手続きを委ねるのが理想だが、家族との折り合いが悪かったり、長年断絶状態にあるような場合は引き取り手がいなくなるので、一般的には葬儀もなく無縁仏として葬られることになる。

ところがこの映画の主人公の牧本氏は、市役所の「お見送り係」の唯一の係員として、遺族との連絡と遺骨の引き取り依頼を熱心に行い、引き取って貰えない場合には、葬儀もなしに葬られるのを気の毒に思って小規模ながら私費で葬儀を挙行してやるというちょっとあり得ない人物である。また、人付き合いや他人への対応なども普通でない。教育者が見れば学習障害ではないかと見る人も多いと思われる。

牧本氏の出自や両親などの情報は一切不明であり、私生活の様子も描かれているが、やはり尋常ではないように思える。道路を横断するときに、車通りが一切なくても何度も左右を確かめるとことなどは、まるで小学生のようにスレていない。ワーグナーの「パルジファル」ほどの無垢とは言い難いが、かなり近いものを感じさせる人物であり、それだけに現実性には乏しい。

牧本氏を演じられるのは阿部サダヲくらいしかいないだろうというのは映画の冒頭から感じさせられる。彼の現実性の薄さを感じさせないようにするには、周囲の役者のクレバーでリアルな演技が不可欠であるが、満島ひかり、宮沢りえ、宇崎竜童、松下洸平、國村隼らの豪華な俳優陣はそれぞれ見事に役割を果たしていたと思う。特に、宇崎竜童の存在感は、他人の思い出話のみでの構成であるにもかかわらず、その人となりが非常に伝わって来たのには驚かされた。

それにしても、あれだけ慎重な牧本氏が、カメラを買っただけであのはしゃぎっぷりは異常だと思った。何故あのような結末にしたのかと面食らったが、ああしないとラストシーンが作れないからだろうということに気が付いた。

全編山形県でロケが行われており、牧本氏の勤務先は酒田市役所だし、鶴岡や鼠ヶ関でもロケが行われており、意外なのは牧本氏が購入していた墓地が山形市であった。海辺の墓地の方がらしさが出たのではと思ったが、制作陣にはそれなりのこだわりがあるのだろう。2008 年の映画「おくりびと」でも酒田がロケ地だったのを思い出させる付合であった。

この映画は、牧本氏のような存在を各自が認められるかどうかで評価が分かれる作品だと思う。
(映像4+脚本4+役者5+音楽3+演出4)×4= 80 点。

アラ古希