「あるんだよ、見えない世界が。人間だけが見えない世界。」山歌 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
あるんだよ、見えない世界が。人間だけが見えない世界。
「山歌」と書いて「サンカ」。つまりそれは山の民、山窩(さんか)。今のご時世にあって、どれほどの人が彼らが存在していたことを知っているのだろうか。史料と言うのものは施政者の側に立った記録であって、民衆の生活の記録と言うものは少なく、ましてや、戸籍もなく、定住もせず、人別帳にも記載がなく、まさに"山に溶けるように"暮らしていた彼らの存在は、存在としてさえ認められなかった。自分も、三角寛や沖浦和光の作品群、「カムイ伝」などに目を通すことがなければ知ることがなかった。それ以前に、宮本常一や柳田國男に出会わなければ興味さえわかなかった。第二次大戦を経て、それまで細々と生きてきた生き残りさえ絶えてしまった。そんな彼らを取り上げる意義は大きいと思う。ただ、この映画でどこまで理解が深まるのかな。世間から虐げられ煙たがられて生きていた人たちがいた、とそれだけでも認識してもらえれば小さな一歩だと思う。
近現代、人間は自然をも科学によってコントロールしようとして、ときおり手痛いしっぺ返しを食らっている。地球がちょっとくしゃみをしただけなのに未曽有の大地震だの、大きな台風がやってくれば悪天候だの、それは人間様からみたエゴなんだけどなあ。だってそのくらいのことは長い長い地球の歴史の中でずっと繰り返してきたことなのだから。人間は、地球の上で自然と一緒に生活させてもらっている、と自覚と感謝があれば、被災による痛みこそあれ、恨みの感情は起こらないなずなのだ。で、そこをちゃんと理解しているのが彼らなんだよな。
人間だけが見えない世界、と劇中で言うが、見えないんじゃなくて、見ようとさえせずに目をそらしてきた世界がここにある。少女ハナの役の子、ワイルドでありながらも情緒の機微の表現が絶妙な、いい表情をしていた。そしてノリオ。サンカに惹かれ、それでもサンカとは共生することが叶わないジレンマを抱えた少年のナイーブさが瑞々しかった。
ただ、ちょっと演出が雑だったかな。例えば、山の頂上まで走ってきたのなら、息を切らした演技はしてくださいな。なんか、縁側からひょいっと庭先に飛び降りたような駆け込み方じゃ軽すぎる。そもそも中学生には見えないけども。